鴨桃代さん(「全国ユニオン」会長)と語る

~ 女性も男性も安心して働ける社会とは ~

鴨桃代(かも・ももよ)さん

1948年静岡県清水市生まれ。
72年淑徳大学社会福祉学部卒業後、千葉市役所にて保育士として入職。88年に誰でも一人でも入れる労働組合「なのはなユニオン」を結成とともに書記長に。98年、同ユニオン委員長を経て、99年にはコミュニティ・ユニオン全国ネットワークの共同代表に。02年11月に結成された全国コミュニティ・ユニオン連合会(略「全国ユニオン」)の初代会長に就任。労働相談を続けるなか、パート、派遣、契約社員たちとともに均等待遇実現に向けた立法化の活動に携わる。
 【対 談】雇用問題は生活不安
 
正規雇用の女性は出産を先送りにして男性並みに働かなければならない、パートタイマーは正社員と同じだけ働いても安い賃金しか得られず、専業主婦の女性たちよりも年金の受給額が少ない。国は、不平等感を持たせて女性を分断し、巧みに統治しています。結婚してもしなくても、雇用の形態が違っても、賃金や社会保障の均等待遇が保障される仕組みを作りましょう。
  足元も国外も不安が広がるなかで
 
阿部 今年、 04年の国会は、 5年に一度、 年金に関する各種の数字を見直す年にあたっているため、 「年金国会」 ともいわれています。
 国民年金の未加入者、 未納者が、 今や360万人。 厚生年金の加入者も3160万人に減っているなかで、 年金への危機感をきっかけに、 私たちの暮らす社会に対して、 失業やケガ、 病気などに直面したとき、 どこまで転落するかわからないという漠然とした不安感が広がっています。 一方、 国の外では、 アメリカによるイラク攻撃から自衛隊のイラク派遣が強行され、 バグダッドでは、 占領軍へのテロが頻発しています。
 足元も国外も安定しない状況にありますが、 暮らしの安心感は、 安心して働けるかどうかによるところが大きいのではないでしょうか。 日本でもパート、 派遣、 契約といった、 非正規雇用と呼ばれる働き方が当たり前になっていますが、 今の社会不安の実態をつかむためにも、 働くことと安心・安全をテーマにお話をお聞きしたいと思います。 年金に関する議論のなかでも、 世代間格差、 つまり、 高度経済成長期を生きた時代の高齢者より今の若い人の方が負担が大きいことと、 男女間格差が目立っています。 年金の男女間格差は、 所得に伴う格差でもあり、 所得格差は、 女性に非正規と呼ばれる雇用形態が多いことの反映でもあります。
 まず、 鴨さんが、 女性の労働問題に関わられるようになったきっかけと、 この間取り組んでこられたことについて、 教えてください。

 私が大学を出て公立保育所に入った時のことです。 私は卒業式直前の結婚だったので、 職場に入った時に名字が変わっていたのですが、 所長が驚いた顔をして、 「まさか子どもを産むつもりはないですね」 というのです。 今のところはないです、 と答えましたが、 「幼児を担任したいなら、 子どもは当分産まないほうがいい」 と言われました。 保育所は、 女性が多数を占め、 なおかつ働く女性を支えるための職場でもあるはずです。 そういう職場でも、 出産、 育児をしながら働くのは、 大変なことだと実感しました。
 さらに、 家族からも女性が子どもを産んで働くのは、 常識はずれだという受け取られ方をされ、 長男が幼いうちに病気で亡くなると、 母親が働いているからそうなるんだといういわれ方もされました。 次男が同じ病気と分かったとき、 この子にもしものことがあったら、 自分でも自分の力を100%育児に割かなかったことを責めてしまうように思え、 職場を離れました。 そういった自分自身の経験から、 女性の働き方に関心を持つようになったのです。

阿部 若い女性たちのなかには、 子どもを産むことも先送りして、 男性に互してバリバリ働く人がいる一方、 子どもを持って、 パートをいくつも掛け持ちして働いている人がいます。 子どもを産むことを押し付けるつもりはありませんが、 産みたいのに産めないのであれば、 また産んだら非正規で安い賃金で働かなければならない、 というのは、 どちらも酷いと思います。 私たちの世代が子育てをした時代より、 子どもを産むのに決心が必要になってしまったようです。 88年からなのはなユニオンで労働相談を続けてこられて、 この約16年間で相談内容に変化はありましたか。

 

  労働問題は雇用問題と生活不安の訴えが中心
 
 パート労働者は自分の働きたい時間に楽しんで働く人たちだ、 といういい方が今でもされることがあります。 相談をはじめた当初は、 そういう認識の延長上にある相談がほとんどでした。 たとえば、 相談の三分の二が税金がらみの相談で、 「103万円の壁」 を越えないためには、 就業調整をどうしたらいいのか、 といったものです。
 今はそれらがほとんど影を潜め、 雇用問題、 つまり解雇や契約解除に関する問題に変わってきました。 8時間働いていたけれど3時間にしてくれといわれ困っている、 といった不利益変更のような問題も含め、 雇用問題が生活不安と一緒になっている。
 平均時給890円では、 一人で生活できないということについて、 この16年、 基本的に大きな変化はありません。 しかし、 家のなかで、 パートの収入の位置づけが変わっています。 自分の低い賃金がなければ、 家のローンが払えないとか、 というように切実さが増しているのです。

阿部 20歳代後半から30歳代半ばくらいで、 2人合わせて、 またはどちらか一方が働いて、 27万円の給料を得ているとします。 子ども1人の保育料が7万円、 残り20万円で、 家賃を払い、 保育園の送り迎えに車も必要で、 食費と着るものを買ったらいくらも残らない、 それが現実です。 これでも恵まれている方ですが。

 今は高校や大学を卒業しても、 最初からパートや派遣とかで働かなければならない人たちがいます。 パートや派遣で働く多くの方が有期雇用であり、 雇用保障がないため将来を見据えられません。 6ヶ月、 3ヶ月、 1ヶ月と契約期間を切られて、 先のことを考えなさいと言われても考えようがないわけです。 人間、 本当に活き活きするというのは仕事をしている時でしょう。 その根底が保証されていないままで、 安心して希望を持って生きていくことができるでしょうか。

阿部 この間、 社会保険料が値上げされてきていますが、 そうすると、 企業は、 厚生年金の保険料負担を軽減しようとして、 厚生年金に加入していない労働者を使おうとします。 結局、 社会保険が整わないままに働く人が増えてしまう。 パートや有期雇用の方たちの年金の加入要件緩和も、 結局、 外食産業で働くパート自身から反対が出た、 という説明がされて先送りされている。 それは、 今、 保険料をとられたら、 家計が維持できなくなるというせっぱ詰まった状態の表れでもあります。 正規社員とパートの賃金格差を縮めることが、 パートの年金化には不可欠です。

 年収500万円の正社員と時給850円、 年収にして200~250万円のパート。 同じ仕事ができるのなら、 低いほうに均等待遇していこうという動きが加速しています。 パート労働者のなかにも年金加入要件適用緩和に反対する人もいます。 年収200万円にも満たない収入のなかから年金保険料を引くことをどう思いますか、 と聞かれれば、 困ると答えるのは仕方ないと思うのです。 パート労働者の自立といいながら、 フルタイム働いても自立できない賃金には一切触れずに、 低い賃金のなかから年金を払うかどうかだけが問われるのはおかしい。 また、 第3号被保険者を残したことにより、 損得勘定からどうしても逃れられない層が、 仕組みとして残ります。 本人たちの意識というより、 仕組みがそうさせているのだということを考えなければなりません。

阿部 正社員は男並みに働かなければならない、 パートは正社員と同じだけ働いても安い賃金しか得られず、 専業主婦の女性たちよりも年金の受給額が少ない。 国は、 不平等感を持たせて女性を分断し、 巧みに統治しています。 結婚してもしなくても、 雇用の形態が違っても、 賃金や社会保障の均等待遇が保障される仕組みに変えていきましょう。
※http://www.ne.jp/asahi/kinto/2000/

(「阿部とも子News ともことかえる通信No.15」(2004年4月号)に掲載)