小川泰子さん(特別養護老人ホームラポール藤沢施設長)と語る
 

~ 介護保険見直し論議 ~

 
小川 泰子(おがわ・やすこ)さん
1950年、神戸市生まれ。証券会社、外資系企業勤務を経て、89年、福祉クラブ生活協同組合理事に(~94年)。92年、神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会理事長(~96年)。96年、生活クラブ生活協同組合副理事長(~98年)、生活クラブ運動グループ福祉協議会会長(~98年)。98年、社会福祉法人・いきいき福祉会理事、特別養護老人ホーム・ラポール藤沢施設長(現職)に。2003年5月から、厚生労働省社会保障審議会介護保険部会臨時委員を務める。横浜在住。著書に『協同の時代』(共著)、『参加型福祉を拓く』(編著)、『雇用・就労変革の人的資源管理』(共著)など。

 

 【対 談】人の一生をトータルに見据え地域で生きる仕組みこそ
 
2000年4月、介護の社会化による家族介護の負担軽減などを掲げてスタートした介護保険。今国会は、介護保険が施行から5年の見直し時期にあたるため、政府側改正案が用意され、すでに予算案には10月から、ホテル・コストといわれる居住費と食事の施設入居者負担も組み込まれています。介護保険の見直しについてはどんな論議がなされ何が足りないのでしょうか。7年間ラポール藤沢の施設長を務められ、また、介護保険見直しのための社会保障審議会介護保険部会委員でもある小川さんに聞きました。
 人生80年時代に今なお人生60年で設計される社会制度
 
阿部 介護は、 現在も将来的にも女性と関わりの深い問題です。 平均寿命を考えれば、 夫に先立たれる確率のほうが高いわけですから、 介護の制度設計には一人暮らしのご高齢の女性のモデルが必要ですし、 そんなお婆ちゃんたちがが楽しく、 人間の尊厳をもって社会から看取られることが大切ですね。

小川 福祉分野に関わるようになって15年が過ぎました。 一貫して感じているのは、 普通私たちは人生80年としてライフプランを考えるのに、 日本の社会制度は今なお人生60年を基準にしてできている、 ということです。 私たち女性は自分の親、 夫の親、 そして社会の親をみることになりますから、 地域の中で一人ひとりが日常の暮らしの中で支え合う、 助け合う仕組みを作ることが必要です。 また、 そのことが私が私らしく生きられる地域、 暮らしの条件を作ると思っています。 かつては、 大家族で夫や子どもの協力があって何とか5、 6年の家庭介護を担うことができましたが、 介護の必要な期間が長ければ20年にもなり、 核家族で、 さらに夫は仕事にかかりきりで地域や家庭にいないという状況があります。 介護虐待は、 起こるべくして起こっているのですから、 打つべき手を打たなければいけない。 だから生活協同組合という一人ひとりの暮らしの質の向上のためにある組織をフルに活用して、 出来ることをしようというのが私のスタートですし、 今もそれは変わりません。

阿部 神奈川は、 介護も生協化しているといいますか、 今まで生協といえば食べ物での取り組みが中心でした。 介護も労力とお金をみんなで出し合いながら支えていこうという運動が全国で一番進んでいる地域ですね。

小川 神奈川の女性たちが有償で積極的にコミュニティワークに取り組んでいるのは、 女性が家事や育児を引き受けることが多いなかで社会参加を継続しにくいという事情があります。 家事や育児と社会参加の両方をバランスよく実現したいと思った女性、 常に社会の一員であることを意識する女性たちが神奈川には多いのではないでしょうか。

 

  金の問題に終始した審議会での議論
 
阿部 ところで、 今回は先送りされましたが、 保険料を納める年齢を40歳から引き下げ被保険者範囲を広げたり、 受給者対象を障害者にも広げることが議論されました。

小川 支え手を広げる問題については、 厚生労働省は保険財政の問題、 反対を押し切った経団連は、 企業負担の問題として捉えていますが、 私は、 20歳から保険料を払うことは若い世代への教育だと思っています。 自分の暮らす日本社会の現状を実感するチャンスと考えるからこそ、 被保険者範囲、 受給者範囲を広げることを支持しました。 わずかでも保険料を払うことでその意味を考えるようにならないと、 世界でも類を見ない日本のこの急速な高齢社会を乗り越えるということはできません。 審議会では、 若い世代が、 高齢化を日本全体の問題としてとらえていくための教育として考えてもらいたいと言ったのですが。

阿部 論議はそこまで深まらずに……。

小川 哲学がないまま、 金の話に終始していたので、 言えば言うほどある意味、 対極にいながら、 厚労省の応援になってしまうということになってしまいました。

 

  政府案は 「介護給付予防法」地域予防保健として取り組みを
 
阿部 介護保険制度の改正によって、 2006年度から 「介護予防」 導入が予定されています。 軽度者はホームヘルプによって要介護状態になっているといわんばかりに、 要介護になるのを防ぐサービスをするというものです。 これまでの介護給付とは別に、 「予防給付」 という 「筋トレ」 などに限定した支援が用意されていますが、 政府案はまるで 「介護給付予防法」 です。 地域保健というのは出生から高齢期の最後の時までをトータルに見据え、 地域でともに生きるためのコミュニティ作りと一緒でなければなりません。 高齢者の介護予防だけを切り離してしまうと、 効果もあがらずかえってコストもかかります。 私は、 予防給付ではなく予防保健として、 たとえば、 小学校の給食の調理場で子どもの給食と合わせて地域の高齢者の食事を作ったり、 口腔ケアを子どもと一緒にやってもいい、 そのことが介護予防になるというような、 地域予防保健の取り組みにすべきだと思います。

小川 「予防給付」 については、 私も一番悩んだところです。 適正なサービス提供がなされていないという現実があります。 今回はいったんサービス提供を適正化して、 その先に私は、 障害者の介護や子育ても含めて一体化した保険制度を展望しています。 また、 市町村施策には縦割りによるむだが多すぎますから、 それも全部見直すことが前提です。

阿部 自治・分権が確立した自治体は、 何をやってもたいていうまく運びますね。

小川 今回の介護保険見直しは抜本的な介護保険を作り直すような改革ですから、 基本は保険者である市町村の裁量権の拡大と実施する覚悟が必要です。 市町村が何を考え、 今までの市町村施策の高齢者福祉や障害者福祉をどうしてきたかが問われることになると思います。 ただ、 分権を進め、 介護保険も市町村の役割にウエイトがおかれるなかで、 市町村合併などによりさらに女性議員が減り、 政治の場に女性が減ってきているのが心配です。

阿部 小選挙区制で代表を一人選ぶなら、 既得権のある男性のほうが有利ですから。

小川 生命の始まりから終わりまでを生活に基づく目線で考えられるのは、 やはり女性です。 政治の決定の場に女性がいないと、 金や既得権益の話が先行してしまい、 縦割りも崩せません。

阿部 介護保険をトータルな福祉施策のなかに位置づけ、 地域で支え合う制度にするためには、 女性の政治参画が欠かせませんね。



(「阿部とも子News ともことかえる通信No.18」(2005年4月号)に掲載)