神田香織さんと語る
 

~ 格差拡大社会の現実 ~

 
神田 香織(かんだ・かおり)さん
福島県立磐城女子高等学校卒業後、東京演劇アンサンブル、渡辺プロダクションドラマ部を経て、1980年、神田山陽門下生となる。二つ目行こう、ジャズ講談や一人芝居の要素を取り入れた独自の講談を次々と発表。講談の新境地を切り開いている。日本演芸家連合加盟、講談協会会会員。1986年、講談「はだしのゲン」公演で日本雑学大賞受賞。2001年の参院選で、社民党の推薦を受け福島県選挙区から立候補するも当選はかなわず。著書に『花も嵐も、講釈師が語ります。一バツイチ子連れ、泣き笑い半世紀』(七つ森書館)。
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 【対 談】20年かけ、支え合う社会作る 日本で社民主義を根づかせたい
 
2001年の参院選で、 社民党の推薦を受けて福島県選挙区から立候補した神田さん。 当選はかないませんでしたが、 スーパーマーケットの前で応援演説をしたとき、 「国道にはどんどんトラックが通っているけれど、 このまちには働き口がない」 と話していたのが印象的です。 来年の4月、 藤沢で講談 「チェルノブイリの祈り」 を演じてもらうことになった 「弱きを助け、 強きをくじく」 講談師・神田さんと、 「強きを助け、 弱きをくじく」 小泉改革がもたらす格差拡大と日本の未来について語りました。
 「強きを助け、弱きをくじく」 で 中間層を瓦解させた 「小泉改革」
 
阿部 今回の総選挙で、 社民党は政策のはじめに 「格差拡大の是正」 をおきました。 社会が平和であれば国も平和であり、 社会が暴力的であれば国も他国に対して暴力的になってしまいます。 平和な社会を作ることで国としての平和を実現したいという考えからです。
 90年代後半から、 多様な働き方という謳い文句の下、 若い人を使い捨てにする働かせ方が日本に蔓延し、 貧困層の若者が増大しています。 思えば神田さんが立候補した2001年の参院選が政策の分岐点でした。 あのとき野党が、 このままではとんでもない社会になる、 ということをきっちり伝えられていたら少しは違った現実があったかもしれません。

神田 私の地元いわき市は、 4年前と比べて人口が5千人も減っています。 海山川に恵まれ、 雪も降らず温暖なせいか、 首長ものんびり構えていて、 地域経済も市民の生活も疲弊しきってしましました。 10月から市政を担う新市長とともに、 これから何をどうするかを考えていかなければなりませんが、 一方、 全国がいわき化してるかという気もします。

阿部 地方の中都市は 「平成の大合併」 で生きていくために市町村合併をさせられたけど、 それでかえって市町村の借金が増えたり、 行政サービスの低下を招いて自らのクビを絞めるという悲しい現状があります。今、日本で起きているのは中間層の瓦解です。 まさに 「強きを助け、弱きをくじく」現実が広がっていますが、 講談はそもそも 「弱きを助け、 強きをくじく」 社会正義を表現するものですよね。

神田 そうなんです。 私は寄席では、 古典を演じていますが、 たいてい威張っている人、 腹黒い人はやっつけられて反省して出直し、 けなげに励んでいる人は報われるという結末になります。 歴史ある講談にみられるような義理人情の文化をもつ日本で、 この間の選挙では、 郵政民営化法案に反対した候補者には刺客を送り込み、 マスコミを総動員して強者は何をしてもいいということを見せつけ、 それが有権者からも支持を得てしまいました。

 今や政治がお笑い的ですが、 生活はお笑いでは済みません。 テレビも与党の太鼓持ちばかりで、 各党のマニフェストを公正に比較検討するとか、 イラクのサマワで宿営地にこもっているだけで、 私たちの税金を1日1億円も使っている自衛隊が、 地元の人たちから嫌われ始めているといった現状をきちんと伝えることもしませんでした。 しかも、 選挙が終われば小泉チルドレンの私生活を面白おかしく伝えることに多くの時間を割いています。

 

  自分や人を大事にする感覚や情をどう取り返す
 
阿部 社会が暴力的になっていて、 弱い者の味方だったはずの笑いも、 テレビ番組では、 共産党や社民党のような野党議員を攻撃的に笑い飛ばすことに使われています。 暴力的な行動をとる子どもには自己確信のない傾向があるように、 靖国神社参拝にこだわってアジアに向けては傲慢な態度をとる小泉首相を支持してしまう日本の有権者も、 自己確信のなさゆえのようにも見えます。 だからこそ、 「左」 は、 講談を育んだような日本の文化を愛するという視点が必要ですね (笑)。

神田 親米右翼なんて本来あり得ないはずですが、 国を愛し世界を愛し平和にやっていく左翼もいいものですし、 もっとウイングを広げて、 右のリベラルな人も取り込む懐の広さがほしいです。 小泉さんの方が手法は上手ですね。 以前、 日本人は自虐的な国民だと言ったけれど、 それが分かっていて一世一代の大勝負に出たのかもしれません。 もっとも、 彼は責任を取らず、 結局、 ツケは国民にまわされるわけですが。

阿部 私は何があっても子どもを守りたいのですが、 子どもという、 絶対的に保護の必要な存在は格差拡大社会では守りきれなくなります。 日本が将来にわたってアジアで尊敬される国になりたいなら、 教育を充実させ自分の可能性に挑戦する意欲をもつ、 思いやりのある子をたくさん育てる必要があるはずです。

神田 実は私、 小泉さんを芸人としては評価しています。 彼は、 芸の世界で遊べばいいのであって、 政治で遊ぶのはもういい加減にやめてほしいです。 毎年どれほどの人がこの世に絶望して亡くなっていることか。

阿部 小泉政治の結果でもありますが、 7年連続で3万人以上の人が、 自殺しています。 あの新自由主義バンザイの、 弱肉強食のアメリカでさえ年間の自殺者は2.5万人です。 消費者金融の借金苦は当たり前、 働き盛りの男性が仕事をなくして自分に価値がないように思ってしまったり、 命と交換で保険金を家族に残そうとしたりする、 日本の勤労者の自殺の多さは異常です。 この日本で命を守るためには、 講談のように自分や人を大事にする感覚や情を、 暴力的な方向へからめ取ろうとする力から取り返していくことが重要ですね。

 

  2025年には もうひとつの日本を実現したい
 
神田 私は講談で想像力をはたらかせるように工夫をしています。「チェルノブイリの祈り」 は原発事故で被曝した消防士の妻の独白で、 好きで好きで仕方がないから夫とよりそい、 妻も被曝し、 妊娠6カ月のお腹の赤ちゃんが放射能を引き受けて生後すぐ亡くなってしまいます。 こういった現実が、 いつ自分の身の上に起きるか分からない状態で私たちは生活しています。 生活を守り子どもたちを守り、 幸福感を感じて生きられる国にしたいです。

阿部 今度の選挙では、 よく高校生の男の子から 「憲法9条変えないように頑張って」 と声をかけられました。 最初は、 おばさんをからかってるのかと思ったけど、 話してみると案外そうでもないのです。 私が目指す社会のありようを一番語りかけたいのは中学生、 高校生。 でも彼ら彼女らは今、 引きこもったり、 リストカットや過食嘔吐をして、 社会のひずみを自分の身に引き受けて生きています。
 イギリス労働党だって政権の奪還には20年を要したのですから、 私も社民党の政策審議会長として、 2025年にはもうひとつの日本、 支え合える社会を実現したいと思います。

神田 期待してます。 ぜひ頑張って下さい。



(「阿部とも子News ともことかえる通信No.21」(2005年10月号)に掲載)