廣瀬幸一さんと語る
 

~ 日本の年金問題 ~

 
廣瀬 幸一(ひろせ・こういち)さん
ひろせ・こういち 1947年、神奈川県茅ヶ崎市出身。日本大学農獣医学部(現生物資源科学部)水産学科卒。海運会社(1級海技士「大型タンカー航海士」)勤務後、1988年、社会保険労務士試験合格、行政書士試験合格。2006年、国民の年金記録に重大な問題があることを指摘。いわゆる消えた年金問題の先駆者となった。

 

 【対 談】お上任せにせず連帯意識持って 年金制度の再構築を
 
年金問題が関心を集めています。私の年金歴を振り返ってみると、大学病院で助手(文部技官)をしていた公務員の時期は共済年金、その後、民間病院に勤めたので厚生年金です。議員になってからは国民年金ですから1号ということになります。年金は、その人の働き方を反映する、人生そのものといえそうです。早くから「消えた年金」問題に取り組んできた社会保険労務士の廣瀬幸一さんと、日本の年金問題について考えました。
 
阿部
3月2日には藤沢で、広瀬さんにお話いただき「取り戻そうあなたの年金」という勉強会を開きました。幅広い年齢層の方たちの参加を期待していましたが、なかなかそうもいきませんでした。
 ■宙に浮いた年金問題の背景には 年金に対する国民の無関心も■
 
 65歳以上の高齢者の6割が年金だけで暮らしているのに、受給年齢になるまでは関心が薄いという実態があります。「宙に浮いた」5千万件の年金についても、第一義的な責任は国にありますが、みんなが自分の納めた保険料にもう少し興味や関心を持つ仕組みだったら、これほどの事態にまではならなかったのではないかとも思います。「宙に浮いた」5千万件の問題をどう見ますか。

広瀬
 私は、2006年の段階で「自分の支払った年金記録が残っていない」という相談を受けて、国会にも情報公開を働きかけました。当時はこれほどの記録漏れがあるとは思いませんから、開けてびっくりという思いです。政府、社会保険庁に大きな責任があることは明らかですが、国民の側に知識も関心もなかったという問題はあります。社会保険庁はそれをいいことに、国民の年金記録を軽く見ていた節がありますね。

阿部
 とくに若い人たちの無年金問題が心配です。日本の社会保障制度は、年金、医療、介護のどれもが崩壊に向かっていて、共助ということが、若い世代に継承できていません。非正規雇用の10万円そこそこの給与では、国民年金の月1万4100円の保険料は払えないという経済的な事情が、まずあります。意識の面では、どうせ返ってこないという諦め、社会の一員として自分が制度を担うなんてばかばかしいという気持ちもあるでしょう。しかし、無年金では、万が一のときも障害者年金を受け取ることはできません。
 歳をとることは避けられませんし、障害を持つ可能性は誰にもあります。ところが共にリスクに備えるのではなくて、不安や不信でギスギスしても、自分さえ良ければという方向に意識が流れているように見えます。かといって、若い人たちに今の制度を信頼せよといっても無理な話です。ですから制度設計も変える必要がありますが、大切なのは社会を共に支えていくという連帯の感覚を取り戻すことではないでしょうか。
 
 ■年金に対する権利意識や 義務感覚がなくなるのは問題■
 
広瀬
 非常に矛盾した状況があります。若い人の経済格差が国民年金の未納につながっていますが、将来、年金の必要性が高いのは現役時代に経済的に恵まれない人たちなのですから。
 ところで、一般に国民年金保険料の収入にしめる割合は、相当に上がっています。国民年金が始まった61年、20歳の保険料は100円でした。当時の20歳の給与は9千円~1万円くらいでしたから、随分割合が低かったわけです。75年前後に保険料は2千円~3千円になり、今では人によっては収入の1割程度まで跳ね上がっています。厚生年金も同様で、しかもこれから上がっていきます。
 かといって公的年金の条件は、民間の商品と比較して悪いものではありません。これをみすみす放棄してしまうのは、人生にとって大変まずいことです。基礎年金に税金を投入するという議論がありますが、完全に税金にした場合は、国民の年金に対する意識はさらに低下するでしょう。現行の保険料方式が続けられるとは思いませんが、税金方式にして権利意識や義務感覚がなくなっていいのかという問題もあります。
 ■保険料の積み上げと税方式の組み合わせ必要■
 
阿部
 どんな働き方でもその人が働いた分を企業と本人が半分負担して積み立て、個人の納めた保険料に応じて積み上がっていく、それが一定額に満たなければ、不足分を税金で補填していく――といった組み合せが必要だと思います。
 基礎年金を税方式にするにあたって、政府も民主党も消費税に熱い視線を注いでいます。消費税は打出の小槌ではないわけで、なんでもかんでも消費税を頼ると、とんでもない税率になります。
 税で不足額を補填するにしても、所得税の累進度や優遇されている法人税率を見直すべきです。消費税では、企業の社会的責任も本人の「積み上げ」意識もなくなって、支えあい連帯していくことから遠ざかってしまいます。中小企業にとっては大きな負担にもなる消費税の本来的な逆進性の問題もあります。
 福田首相が社会保障国民会議を設置して、年金論議を行っています。広瀬さんは、参議院の参考人質疑で年金の制度設計に関する発言をしておられますね。

広瀬
 公的な場で討議されている皆さんは、立派な経歴のすぐれた方々ですが、年金が必要なのはそういう人たちではないのです。人生の成功モデルを基準にして制度設計をしようとしてもうまくいきません。
 社会保険労務士などは現場の事情がわかっているので、違ったことを提言できるのではないでしょうか。
 ■社民党は共助・連帯の先頭に立つべき■
 
阿部
 北欧諸国は消費税が高く社会保障制度は充実しているということが強調されます。しかし、昨年夏にスウェーデンを訪問しましたが、企業が社会保険料を逃れるなどということはないそうです。日本では大企業が偽装請負をしているなど、企業倫理も社会のルールもないような現状を放置しておいて、表面的な消費税論議がなされているのは論外です。
 ドイツでは、労働組合が年金に深く関わっています。受給権まで自分たちの仕事だという認識があって、年金の運用や管理にまで加わっています。
 年金をお上まかせにせず、連帯意識をもって高齢化社会のリスクを抑えることが必要です。社民党は、「平和的生存権」を守るべく、少子高齢社会における共助・連帯の仕組みに関心をもち、その先頭に立つべきと思います。

広瀬
 年金制度は公平が原則で、制度の再構築は、思想信条の問題ではありません。与党のなかでも税方式を前向きに考える案が堂々と出てきたのは大きな変化ですが、これが最良の案かどうかは検討が必要だと思います。





(「阿部とも子News ともことかえる通信No.31」(2008年4月号)に掲載)