松下和夫さんと語る
 

~ 日本の環境問題 ~

 
松下 和夫(まつした・かずお)さん
まつした・かずお 1948年生まれ。環境庁勤務を経て、京都大学大学院地球環境学堂教授(地球環境政策論分野)、国連大学高等研究所客員教授。著書に『環境 政策学のすすめ』(丸善)、『環境ガバナンス(市民・企業・自治体・政府の役割』(岩波書店)、『地球温暖化読本』(海像社)、『環境政治入門』 (平凡社)ほか。

 

 【対 談】排出量取引と環境税の制度化 政治が主導して実現を
 
参議院では、福田総理の問責決議案が可決され、国民の間には、ガソリンの高騰や後期高齢者医療制度への不安や不満が高まっています。一方、7月7日から開催される北海道洞爺湖サミットのテーマである環境の問題は、主催国である日本の取り組みが問われるところです。そこで、環境庁(省)を経て、環境行政や地球環境政策を研究している、京都大学教授の松下和夫さんに、環境問題について政治が取り組むべき課題を聞きました。
 
阿部
デンマークは、2030年にエネルギーの35%を再生可能エネルギーに置き換えるという目標を定めています。そのデンマークの気候・エネルギー大臣コニー・ヘデゴー氏が6月に来日して、福田総理に温暖化対策への積極的な取り組みを求めました。2009年12月に、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)が、コペンハーゲンで開催されるのに先だっての働きかけでしょう。
 ■長期目標だけでなく短期の具体的な課題も■
 
 さて、日本の政治は環境問題、特に温暖化問題についてまず何をすべきでしょうか。

松下
 温暖化問題については、国連の「気候変動に関する国際パネル」(IPCC)に世界の科学者が参加し、科学的な報告書を作成しています。
 報告のなかに2100年までに、世界の平均海面は最大59センチ上昇し、世界の平均気温は6.4度上がるという予測もあり、これを真摯に受け止めて日本の政治が進むべきビジョンを示し、率先して実行することが大切です。
 日本独自の温暖化対策を示した「福田ビジョン」にあるような、2050年までの長期目標として、現状から二酸化炭素(CO2)排出量60~80%の削減を掲げたのは評価できますが、長期目標だけでなく、より近いところ(2020年)の具体的な目標を示すことも必要でしょう。

阿部
 具体的にはどんなことを求めますか。

松下 福田首相は、 「低炭素革命」 と革命という言葉を使っている割には具体性に乏しいところがあります。国内排出量取引(企業ごとに定めた温室効果ガスの排出枠を余った企業と、枠を超えて排出した国や企業とが取引する制度)についても、秋から制度化に向けた実験を始めるとしていますが、今こそ政治が、制度化に向けて強力なリーダーシップをとってほしいところです。環境税導入も10年以上、検討につぐ検討をしてきたのですから、具体化に向けて動いていただきたいですね。

阿部
 政治の世界で「検討」というのは、これから考えましょうということ。温暖化は待ってくれません。「革命」らしく実行に移してほしいものです。
 
 ■環境負荷の少ないエネルギー利用進める仕組み作りを■
 
松下
 デンマークでは、過去28年間にGDPは70%伸びている一方、エネルギーの伸びは0%に抑えました。経済成長を達成しながら雇用を増やし、CO2は減らしているのです。
 スウェーデンでは、間伐材などで作られるペレットストーブの利用が広がっています。石油や石炭には環境税や硫黄税がかかっているため、ペレットストーブを使う方が安くなる仕組みができています。日本では、環境負荷の少ないエネルギーの利用を進めるシステムがまだできていません。

阿部
 風車やバイオマスを発電に利用するなど、がんばっている地域はありますが、全国に広げるには何が必要ですか。

松下
 日本では補助金をたよりにして取り組んでいる面がありますが、それでは限界があります。ドイツなどでは、国家予算を使わずに、電力料金の体系を変えて、環境負荷の少ないエネルギーは安く、環境の負荷が高いエネルギーは高くなるよう料金を設定しています。
 
 ■独のエコロジー税制改革参考にグッズ減税、バッズ課税を■
 
松下
 ドイツは、エコロジー税制改革をして、企業に環境税をかける代わりに、社会保険料の負担を軽くして、エネルギーをたくさん使う企業には増税になっても、産業界トータルでは増税にならないようにしました。

阿部
 松下さんは1997年の京都議定書の実務にも関わっていらっしゃいます。あの時代の約束を日本はまだ達成できずに、かえって二酸化炭素の排出量は増えてしまっていますが、京都議定書の目標達成のために、日本は何をすべきでしょう。

松下
 やはり環境をよくする人や企業が報われて、悪くする人や企業が高い料金を払う仕組みを作るのが一番です。努力すれば税金も経費も下がるのであれば企業は努力するでしょう。
 税制のエコロジー化が重要です。環境によいこと(グッズ)減税と悪いこと(バッズ)への課税をセットで導入します。すなわち、投資や労働への税金を下げ、環境によくない汚染物質の排出などには課税するというものです。

阿部
 6月に地元藤沢で「アース」という映画を上映しました。
 地球に住む生き物のドキュメンタリーで、北極から南極へと向かいながら、ホッキョクグマの親子、アフリカゾウの群れ、ザトウクジラなどの営みを追った作品です。ホッキョクグマが、温暖化の影響で、氷が溶けて獲物が捕れず餓死してしまう場面も出てきます。
 子どもも大勢見にきてくれて、子どもも含めて、環境問題を何とかしなければならないという市民の意識が伝わってきました。何か発火点があれば、日本の市民も大きく動くように感じています。
 
 ■エコロジカル・シチズンシップで最貧国の危機に取り組む■
 
阿部
 温暖化の影響とみられる洪水や干ばつが、最貧国で食糧危機の原因になっています。環境問題が世界の格差をさらに深刻化させている事態について、どうお考えですか。

松下
 環境問題の影響を考えると、先進国と途上国の間には、非対称性があります。すなわち温暖化で一番被害を受けるのは、原因を作っていない貧しい国であり、恵まれない人々です。ですから、私たちはグローバルな環境に対して地球市民としてよりよい環境を求める権利とともに、他の国への影響にも思いをよせ、協力していく義務があります。これをエコロジカル・シチズンシップとよんでいます。

阿部
 私は、社民党の政策審議会長ですから、ドイツで社民党と緑の党が政策協定をして作った環境保護の制度がまだ生きているということを心強く思いながら、社民党は小さく、環境政党としての緑の党はない日本の現状から始めなければならないと思っています。
 松下さんは、今、社民党にどんなことを期待しますか。

松下
 明確で筋の通った政策を大胆に打ち出すことです。環境についての取り組みなら、党を超えて賛同を示す人は出るはずです。

阿部
 環境対策を制度化できれば、日本の宝である技術力を生かした経済の活性化にもつながるでしょう。
 社民党は、宝を掘り起こすためにもがんばります。





(「阿部とも子News ともことかえる通信No.32」(2008年8月号)に掲載)