竹信三恵子さん(ジャーナリスト/和光大学教授)と語る
 
竹信三恵子(たけのぶ・みえこ)さん
東京都出身。朝日新聞経済部記者、編集委員兼論説委員などを経て、2011年4月より和光大学人間学部教授。2009年、「貧困ジャーナリズム大賞」受賞。著書に、『日本株式会社の女たち』(朝日新聞社)、『ルポ賃金差別』(ちくま新書)、『「家事の値段」とは何か』『女性を活用する国、しない国』(以上、岩波ブックレット)、『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書)、『ピケティ入門~「21世紀の資本」の読み方』(金曜日)など多数。

 

 

 家事労働ハラスメントと女性の生きづらさ
 
 今年は「男女雇用機会均等法」制定から30年を迎えます。しかし、いまだ働く女性の6割は非正規雇用により不安定な生活を強いられ、妊娠・出産すら選べない状況にあります。女性たちを労働現場で二流として扱い、貧困に陥れているものはなんなのでしょうか? ジャーナリストの竹信三恵子さんは、その大きな原因として、日本社会にはびこる家事労働への蔑視・嫌がらせを挙げています。「家事労働ハラスメント=家事ハラ」という言葉を生み出した竹信さんに、この国の女性の生きづらさについてお話をしていただきました。
 
 ■介護や保育の仕事は なぜ低賃金なのか■
 
阿部
 私の後援会のメンバーには、主婦の人たちがすごく多いんですけど、彼女たちはみな、竹信さんの書いた『家事労働ハラスメント』(岩波新書)を読んで、「本当にそうそう」とうなずいています。今までなんとなく実感していたけどうまく説明できなかったことがやっと分かった、と。

竹信
 全部バラバラの現象に見えていたことが、実は一つにつながっているんですね。家事労働は誰でもできる価値が低い仕事だと思われていて、それを「女がやっていりゃいいんだ」みたいな空気があって、ずっと女性に丸投げされてきた。だから企業社会では、家事労働にかかる時間はまったく考慮されず、正規の働き方に組み込まれない。そうなると家事を担う女性は正社員として働き続けることがかなわないから、非正規へ向かうしかない。こういう仕組みができている。その中では、女性は経済力も発言力も奪われ、いつまでも貧困の連鎖から抜け出せないわけです。

阿部
 家事労働を含めれば男性以上に「働いている」女性はずっと多いと思います。

竹信
 しかも「家事労働はタダ」という根強い意識があるから、介護士や保育士の仕事も賃金が低く抑えられていて、それが社会問題になることなく放置されてきた。

阿部
 介護や子育て、そして炊事や洗濯だって、生きる上で不可欠な仕事じゃないですか。なんか今は、「生きる」や「暮らす」という部分が隅へ追いやられていると感じます。

竹信
 まったく、「生を支える家事をなめるな」と言いたいですね。
 
 ■被災地でも女性たちが 無償労働を担っていた■
 
阿部
 この本は、東日本大震災の被災地での話から始まっています。被災地で生きる女性たちの困難を、“家事ハラ”の側面から語っているところに感心しました。

竹信
 最初に被災地を訪ねたのは、郡山市の女性に会うためでした。彼女は非常勤の保育士で、震災と原発事故で逃げている間に雇用期限が切れ、更新されなかった。こうした契約打ち切りは女性のパートを中心に各地で見られました。また、福島第一原発の事故に遭い、避難してきた認知症の義母と病気のおばの介護で、心身ともに疲れてうつ病を発症した女性にも会いました。朝から夜まで会社で勤務し、帰宅後は夕食の支度、夜中は高齢者の世話に追われる毎日。震災によって、家事ハラが浮き彫りになった例です。  女性支援団体の集会では、避難所の食事作りが女性被災者だけに任されているといった報告もありました。「やって当然の無償の家事労働」が、避難所でも女性たちに押しつけられていたんです。生きていくために必要な家事・育児・介護といったことが、支援の中でこぼれ落ちている実態がそこにはありました。けれど、それらの支援を求める声を誰も聞いてくれなかったというんです。

阿部
 被災地の生活再建や復興って、本来は足下の暮らしをどう築き直すのか、ということが重要なのに、その大事なところが抜け落ち、公共事業のばらまきだけが先行している。それによってできた被災者住宅に人々が戻ってきても、それは決して“人間の復興”にはつながらないように思います。
 
 ■圧倒的多数を無視した 安倍政権の女性政策■
 
竹信
 安倍政権は、「女性が輝く社会づくり」を掲げていますが、彼らが見ているのは、大手企業で働いたり、会社の役員になるような人たちばかりです。そうした女性は、家事サービスを購入したり、家事労働の代替要員を雇うことができます。一方で、低賃金の非正規労働に従事したり、自営の店や農家で家業を支えながら家事・育児もせざるをえない二重の労働を抱えた圧倒的多数の女性たちは、まるでいないみたいな存在になっている。

阿部
 うさんくさいですよね。女性を1級、2級と分けて、前者さえよければ世の中うまくいくみたいな。実際は、もてはやしているように見えて、かすめとってるだけですね。

竹信
 おいしいところだけとって都合の悪いところは捨てる、というか…。結局、少子化で人口が減少する中で、税金をほとんど投入せずに女性の労働力だけうまく使いたいというのが本音。そうした都合よく使える者だけが彼らにとっての「女」なんでしょうね。  小泉政権時代の郵政解散のときも、女性刺客を各選挙区に立てたでしょ。あれも女性候補者たちに「自分は小泉さんから重視されている」と思わせ、うまく利用したんです。  その点、民主党の政権時代は割といい政策をとっていたと思いますけど、女性への視点があまり入っていたとはいえませんでした。

阿部
 今度、私は民主党に来て、「男女共同参画」などを担当するネクスト内閣府特命大臣に命ぜられました。この立場を最大限活用して、女性政策、人間を取り戻す政策に力を入れたいと思います。
 
 ■1日8時間の労働で 新しい豊かさが生まれる■
 
阿部
 本当の意味で「女性が活躍する社会」にするにはどうするべきなのでしょう?

竹信
 これまでの話の文脈でいえば、女性が働きやすい環境を整えるために、女性が負担していた家事労働を分担する必要があります。一つは子どもやお年寄りの面倒を見る行政の社会サービスを充実させることです。

阿部
 最低限必要な家事労働を福祉でカバーし、生活にゆとりを持つということですね。

竹信
 そして、企業は労働時間を働いている人たちに返す。労働規制を強化して、8時間労働を守らせるということです。ところが、安倍政権は今、労働時間の規制を外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」を推し進めています。長期休暇が取りやすくなる、などと言われていますが、家事や育児は、まとめてできるものではなく、一日に一定時間必要なことです。浅はかな発想だと思います。  三つ目は男性への分配です。日本の男性は、低賃金でしか働けない女性を養うために「何時間も働け」と言われ続けてきましたが、1日8時間の労働になれば、女性が担ってきた家事の一部を分け持つことが可能になる。その分、女性は外に行って働き、それで得たお金を家族の暮らしのために充てるんです。  こうした分配が実現すれば、女性も男性も安心して働き、暮らせる社会になると思います。女性たちがいま求めているのは「輝く」ことなどではなく「安心する」ことなんです。

阿部
 本当にそうね。次の世代の安心のために、まずなにをするべきか。政治の役割が問われていると思います。







(「阿部とも子News ともことかえる通信No.50」2015年3月号に掲載)