前原誠司さん(民進党ネクスト財務・金融担当大臣)と語る
 
前原誠司まえはら・せいじさん
1962年、京都府出身。衆議院議員(8期目)。87年、京都大学法学部卒業。松下政経塾8期生。京都府議を経て93年に日本新党公認で衆院選初当選。その後、新党さきがけに合流。98年、民主党の結党に参加。2005年、民主党代表。民主党政権時代は国土交通大臣(09年)、外務大臣(10年)を務めた。著書に『政権交代の試練』(新潮社)、『日本の成長の突破口はこれだ!』(大成出版社)など。趣味はSL写真の撮影。

 

 

 民進党がめざす日本の社会像
 
民進党の代表選挙が行われ、新代表に蓮舫さんが選ばれました。代表選では、立候補した3者とも、格差を是正するための積極的政策が必要だという点で一致していたと思います。その中で「すべての人が負担し、すべての人が受益者になる」「AllforAll」という政策を掲げていたのが前原誠司さん。従来の社会民主主義的な政策の「改革」を求める私の考えと共通する部分も多く、また多くの示唆を与えられました。この政策を実現すべく先日、党内に「尊厳ある生活保障総合調査会」を立ち上げた前原さんが今回の対談のお相手です。


みんなが応分に負担し
みんなが受益者となる


 
 ■分断社会への処方箋■
 
阿部
 前原さんが代表選で示された政策には、正直「やられたな」という気持ちでした。どちらかといえば、対極にいると思っていた前原さんから自分が取り組まねばならない課題を指摘されたのは驚きでもあり、同時に前原さんの政治家としての信念を感じました。この政策に至った経緯を教えてください。

前原
 出発点として、民主党政権時代の反省があります。その総括の上で、われわれはどのような社会をめざすべきかを示さねばならないと思いました。そんなとき出会ったのが、財政学者の井手英策さんです。井手さんと勉強会を行い、その成果を『分断社会ニッポン』(朝日選書)という本にまとめました。
 井手さんは、格差拡大によって日本社会にさまざまな分断が生じていると指摘しています。富裕層と貧困層、高齢者と若者、男性と女性、都市と地方……。格差を是正するには、これまではお金持ちから税金をたくさんとって貧しい人に移すという考え方でした。しかし、これでは税金を多く払っている人には受益がないため不満を感じ、租税抵抗が強くなる。そして分断の溝はより深くなってしまう。
 そこで所得移転ではなく、「AllforAll」=みんながみんなのために――誰もが応分に負担し、誰もが受益者となる再分配をすべきだと考えました。そんな社会をめざしたいと。

阿部
 その考えに基づき発足した「尊厳ある生活保障総合調査会」の初会合がありましたが、代表選後、党の仲間がもっとも集まった場ではないでしょうか。前原さんの提案に多くの議員が党の未来を見たように思います。
 
 ■希望を分かち合うために■
 
阿部
 さきほど言われた社会の分断について、本の中で「中間層と呼ばれる人たちは、経済的にも状況的にもさらに厳しいところへ落ちていく不安を抱いており、そのため、自分より下にいる人を嫌悪し、いない方がいいという気持ちを増長させている」と書かれていました。これを読んだとき思い出したのは、相模原の障がい者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件です。施設の元職員が「障がい者は社会に不要」と考え、障がい者を19名も殺めたというのは、医療や福祉を専門としてきた者としてとてもショックでした。

前原
 当障がい者福祉は財源含め、もっと充実させるべきだと思います。しかし、それは健常者への施策と一体でなければならない。障がい者だけ得しているととられ、批判の対象になってしまうからです。一体化させた政策――それこそが「AllforAll」の考え方です。
 教育や保育の無償化も、高齢者の老後の不安を解消する政策とパッケージにする。そうすることで、誰もがどこかで受益者になる。
 私はいま、自分のポスターに「希望を分かち合う社会」と書いています。財源をつくるため、所得の大小に関係なくみなが負担増になるけれど、結果的にはそれによって負担減へつながる社会をめざしたい。負担減が格差を縮め、分断をなくし、みなが希望を分かち合える社会になれば、「やまゆり園」のような事件を防げるかもしれない。
 「みんなが受益者」という意識を持てるような政策パッケージを財源論の中でどう導き出していくかが、今後の課題となるでしょう。
 
 ■観念論と現実論■
 
阿部
 ところで前原さんは、「憲法改正論者で親米だから、安倍首相と変わらない」といった見方をよくされると思いますが……。

前原
 確かに憲法には見直すところがあると思います。しかし70年間これで不都合はなかったわけですし、国の骨格をつくるものですから、じっくり議論したらいい。私は憲法改正が最優先課題とは考えていません。
 また、私は日米同盟強化論者ですが、安倍さんとは違います。たとえば彼は、昨年の集団的自衛権の行使に関する議論の際、立法事実として挙げていた具体的な事例について「想定していない」と答弁した。だったら何のために憲法解釈を変更するのか。つまりは、解釈変更したいだけの観念論なのです。
 私は現実論で考えます。旧周辺事態法に従い日本が後方支援をする米軍が、もし攻撃を受けた場合、後方支援が「武力行使との一体化」と見なされれば、前の憲法解釈では集団的自衛権の行使となるため中止せざるを得ない。しかしそれでは同盟関係が破綻する。これを解釈変更で行使できるようにするという話であれば、違った議論になったはずです。
 結局、安全保障法制は、米国との間合いを必要以上に詰め、米国の軍事行動に必ず協力せざるをえない状況を作ってしまった。

阿部
 本当に不用意ですよ。それで自分たちの交渉力を弱めてしまったわけですから。
 この外交・安全保障の問題は、民進党が政権政党に復帰する際の試金石になるでしょう。私もまた、現実論に立った前原さんと、しっかりと議論をしたいと思います。
 
 ■「シロアリ」発言の真意■
 
阿部
 昨年、共産党を「シロアリ」にたとえた前原さんの発言が問題となりました。あれは野党共闘への批判と取られたようですが、実際は民進党自身の問題を指摘していたように思うのですが…。

前原
 その通りです。前述したように、私は自公政権のつくりだした国民の負担率は低いが自己責任型の冷たい社会、分断を生み出す社会ではなく、「AllforAll」をめざすべきだと考えていますが、そうした社会像をしっかり党内で共有しなければ、野党共闘はありえないと考えています。その土台となる部分をはっきりさせた上で各政策について共闘するのなら、共産党に限らず大いにやればいい。
 たとえば教育の無償化は、日本維新の会も賛成しています。共産党とは、外交・安全保障や消費税では合意できないかもしれませんが、新潟県知事選のように「原発のない社会をめざす」という部分なら共同歩調をとれる。
 要は党の軸が定まらない状態で共闘しても足下を食われるということ。それを「シロアリ」という言い方で表現したに過ぎません。

阿部
 今回の調査会をきっかけに、そうした議論が行われることを期待します。民進党が野党第一党として新しい軸を示さないと、今や日本社会の底が抜けてしまいかねません。

前原
 国民の負担率は若干高くなるけど、サービスは充実している欧州型社会をめざす、と堂々と言えばいい。負担増は嫌でしょうが、最終的にはそれにより自分でサービスを買わずにすむようになる。その点を各ニーズに合わせて訴えることが重要だと思います。







(「阿部とも子News ともことかえる通信No.53」2016年11月号に掲載)