第154回国会 法務委員会厚生労働委員会連合審査会 第2号(2002/07/09) 抜粋 ○阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
参考人の皆様には、長時間御苦労さまでございます。私が最後ですので、よろしくお願い申し上げます。
きょう、五人の参考人の皆様のお話を伺ったうち、わけても前田参考人に私は中心的にお話を伺いたいと思っております。
と申しますのも、今回、この法案の直接の立法根拠となるか否かはまた判断の分かれるところでございますが、世上あるいは政府の一部の方々にも、池田小学校事件との関連、池田小学校事件がある意味でこうした法案の審議を後押ししたということも私は否めないと思いますし、そのことをある意味で言及されておられたのが前田参考人ですので、極めて大事なことと思いますので、お伺いいたします。
ここでは、参考人、池田小学校事件の意味とお書きでございましたが、果たして、池田小学校事件の問題点は何でございましょうか。
○前田参考人 先ほど御説明しましたように、私の発表した内容というのは、マスコミ等で池田小学校事件が直接の原因でこの法律案が動いているように言われるけれども、実質的な意味でこの法律案をつくっていった日本の社会的状況といいますか事情を三つ申し上げて、ノーマライゼーションが発展してきたこと、それからそれに付随して措置入院制度の変質があったこと、さらに、それを支えるものとして司法精神医療関係者の少なさというか手薄さがあった、こういう問題を解決しなきゃいけないという実質的な問題に対してこの法律案がこたえているという意味で、私は合理性があると。
ただ、こういうノーマライゼーションの動きの中で新しい法律案がぱっと出てくるというのは非常に難しくて、外国でもそうですし、日本の今までの立法でもそうだと思うんですが、例えばストーカー防止法なんかでもそうなんですが、きっかけとなる事件はある、ただ、でき上がった法律案が、きっかけとなる事件の問題解決に対して即対応するものであるかどうかというミクロの因果性というのは全く別だと思っております。
私は、池田小事件がきっかけになった、その意味でとうとい犠牲の上に成り立つということを否定するものではありませんが、ただ、そこに近視眼的に引きずられて法案の中身を持っていくのは問題だということを申し上げたんですね。
○阿部委員 私は、逆に、近視眼的に引きずられるという意味ではなくて、きちんと事実を踏まえることが精神医療の改善並びに皆さんのきょう御指摘の司法精神医学のあり方の改善にも結びつくと思いますので、あえて指摘させていただきます。
私は、池田小学校事件は、やはり極めてずさんな起訴前の簡易鑑定にまず第一、起因しておると思います。今、この犯人とされる方は、いわゆる精神障害ということではなくて、普通の刑法の中での裁判という過程を踏んでおるわけです。この方が、経緯の中で、以前に簡易鑑定を受け、措置入院を受け、そうした病歴、繰り返されているがゆえに、社会的には、精神障害が起こす事件であるというふうな過剰なイメージを持たれて、差別、偏見を助長いたしました。私ども法にかかわる者は、逆に言うと、きちんとどこから手をつけたらこういう間違ったイメージが広がっていかないかということに一義的にまず任を置きたいと思うのです。
二番目の質問ですが、前田参考人のレジュメの中に、「措置入院制度の変質」という一項がございまして、確かに、以前六万人おられた患者さんが現在三千人、措置入院制度で措置されている方の数は減っておりますが、なおどのような点が問題とお考えでしょうか。二点目、お願いいたします。
○前田参考人 先ほどの池田小の問題については、私も先生と基本的な考え方は違わないということを申し上げた上で、措置入院制度についてお答えしたいと思うんですけれども、やはりこの六万が三千に減ったというのは医療の変化が一番基本にあるんだと思います。その意味で、減ったということ自体はノーマライゼーションの一つの象徴であって、また経済的措置というような、ある意味で不透明な部分というものを純化したというのは合理的だと思うんですが、ただ、現在でも、非常に重大な犯罪を犯して措置入院になるときに、審判を行うことの地域的な格差とか、それから時間的に与えられている余裕とか、不十分な面はあろうかと思います。そういう問題をある意味で解決するために、この法律案というのは一定の合理的な道をつけているというふうに私は評価しているということでございます。
○阿部委員 私は、それがそのような役割を果たさないゆえにこの法案に実は反対の立場をとるものです。
先生も既に御承知おきかもしれませんが、措置入院で現在三千人の方が措置されておるうち、二十年以上の期間病院に幽閉されている方が八百人余、四分の一は現行の措置入院制度でも二十年余を病院でお過ごしでいらっしゃいます。
また、簡易鑑定について申せば、川本参考人の京都を例にとりますと、今ほとんどお一人のお医者様、簡易鑑定はお二人でなさいますが、お一人で百人なさっております。こうした簡易鑑定のあり方、やはり一人の判断あるいは限られた精神科医の判断は極めて問題をはらむ。それゆえに、例えば千葉県で行っております簡易鑑定では、グループ制にいたしましてなるべく多くの医者が、司法精神医学の発達のためにも、この司法鑑定の中に、簡易鑑定の中に加わって改善をしていくというふうな道を歩んでおります。
やはり手をつけるべきは現行の措置入院制度と簡易鑑定。そして、その道がいかに遠く見えようとも、ここから切り込まない限り現状の措置入院の長期入院の方も安易な鑑定で、逆に言えば、こういうふうに池田小学校事件を起こすような方たちの問題も解決されないし、逆に、鑑定の問題性ゆえに、恣意的な鑑定によって裁判を受ける権利すら奪われている方も出てくると思います。
私はその点きょう、参考人のお話を伺いながら、もしも問題意識を共有していただけるなら、先生方のお知恵をもってまず措置入院、簡易鑑定に切り込んでいただきたい。このことを改善せずして日本の三十三万人という膨大な入院患者さんの未来ももちろんないのですが、まず司法精神医学を言うならば、この点を私は強調したい。
そして、最後に前田参考人と川本参考人にお伺いいたしますが、お二方とも、医者と裁判官の合議体をとるというお考えでございました。もしも合議体をとってこの二者の意見が食い違った場合はどうされますのでしょうか。前田参考人にお願いいたします。
○前田参考人 その前に一言、措置入院の適正化というのはもう御指摘のとおりで、川本先生と私も同じ学会で法と精神医療をやっているわけですが、千葉のその先生に来ていただいて研究はやっております。措置入院制度の合理化というのは本当に喫緊の課題だと思っておりますが、こういう法律案の形でやるべき解決の仕方のほかにいろいろな方策があろうかと思っております。
時間がありませんのでお答えしますけれども、要するに、合議体で議論をするというのは、これは食い違うと言いますが、話し合って結論を出していくということでして、先ほど川本先生が何度も御指摘になっていますように、現実から出発して考えますと、医療の側と法律の側が正面からぶつかり合うというのは非常に考えにくい。お互いに相補完し合いながら一番合理的な障害者の対応を考えていく、それがひいては国民の安心感、安全感、被害者の側の安心感にもつながる、そういうシステムとしてかなりいいものとしてでき上がっているという評価を私はしているということでございます。
○川本参考人 私も同様でございます。
もし万が一といいますか、どうしても結論が出なければ、それはまた別のメンバーで検討するとかそういうことは考えられるだろうと思っておりますが、今前田先生がお答えになったのと基本的には同様でございます。
○阿部委員 私は、きょうのお二方のお話を伺いながら、やはりそのような合議体にすることによって逆に、どちらが最終責任をとるかが明らかでない体制がここに生ずると思うのです。
例えば、医者の方は、再犯か再発かもさっき木島委員が極めていい質問をしてくださいましたので私はあえて言及いたしませんが、措置入院で要求されているもの、主にはその方の自傷他害で、それは再発ではございません。要するに、私は医者ですが、今私ども医療現場に課せられているものは、現在その患者さんをこのままで放置したらその方が危険であるかどうか、その方自身が危険であるか。それは、自分がだれかをけがさせることによっても生ずる危険ですが、そのようなものについて患者中心に判断する役割であって、再発して再犯を犯すか等々は、現在医者に課せられた任務ではございません。
そこをリスク連続性という形で川本参考人はおっしゃられましたが、それはある程度認めた上で、デンジャラスかどうかを裁判官が研修も含めて学んだ上で判断すれば合議になると。言葉の上ではリスク連続性、デンジャラスネスとかいう形で極めてクリアカットに言われますが、実は、ある方がある状態に置かれて犯罪を犯すかどうかということは、極めてこれは刑法の上でも判断が難しい。そして、医療にはそのような判断スキームを持っておりませんので、ここで相違が生じた場合という例を挙げました。
いずれにしろ、前田参考人に最後にお願いいたしますが、例えば先生がお引きになったイギリスでは、いわゆる保安処分とは申しませんが、こうした治療処分に対して再犯予測要件はございません。保安処分とは呼びませんが、イギリスの治療的な取り扱いの中では、再犯予測要件というのは述べられておりませんし、またドイツでは、むしろ司法の場で起訴が原則になり、すべてが公判で扱われて、むしろ裁判官の判断が主になっております。
こうしたことについて、先生は、日本の精神医療の、ある種の精神科の医師たちの判断が再犯ということをがえんじないというふうに当初おっしゃいましたが、精神医学協会も反対声明を上げております折から、諸外国においても、私は先生の御認識のもう一歩先をお教えいただきたいと思います。
○前田参考人 イギリスの御専門は川本先生ですので、私はちょっとあれなんですけれども、ただ、やはり、医療の側と法律の側が対立するのではなくて、その中で合理的な、この手の連続的な危険の量があったときにどこで切るかという判断は、お医者さんの側からも考えていただかないと困るんだと思います。
それは医者の問題ではないとおっしゃいますけれども、やはり法律家と議論しながら、そこで新しいガイドラインをつくっていっていただかないと困るし、こういう法律案をつくるつくらないにかかわらず、私は、ノーマライゼーションが進んでいく中でこういう問題は別の形で必ず起こってきますので、そういう国民一般の、被害者の側も含めた規範意識をくみ上げた形での評価、そこに医者の側もコミットしていっていただかないと困ると申し上げたいと思っております。
○阿部委員 済みません、一言だけ。
ノーマライゼーションの基本は、お互いの信頼でございます。再犯の予測云々は、医師と患者の信頼関係に大きな亀裂を生みますので、その点で申し上げましたが、貴重な御意見ありがとうございました。
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