第159回国会 憲法調査会 第6号(平成16年4月15日(木曜日)) 抜粋

案件:  日本国憲法に関する件(科学技術の進歩と憲法)

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阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 私は、まだ国会議員になって四年目なのですが、実は、木村先生が一九八〇年代から各地でバイオエシック スのお話をなさるときに聞きに参りまして、大変に先見性のあるお話をしておられるなと思ってお名前をよく よく覚えておりまして、実は本日は、本来、我が党は土井たか子がここの委員なのですが、土井の方から、阿 部さん、木村さんが来られるので、あなたに質問をさせてあげたいと思うわと言われまして、喜んでやってま いりました。

 国会というところに来て、各委員会に出席する都度、非常に速いペースで、本当に審議とかが進まないまま 、法案対応に追われるという日々を送っております身にとっては、きょうのように、五百年か一万年か先、未 来に向けた骨格のあるお話を伺えるというのは、非常に大学の授業のように参考になるなと思って伺っており ました。

 私は、まず一点目、やはり先ほどの先生のお話をずっと伺いながら、日本国憲法の成り立ち、特に、アメリ カが、戦前の最高裁判決に基づくところの、あるいはニューディール政策に基づくところの一つの理想として の平和やあるいは非暴力主義の延長上に我が国の憲法を置いて制定されてきた過程と、それを簡単に要約する と、今、木村先生のお立場からは、さらに科学技術が非常に想像を絶するところまで踏み込んできた段階で、 それをもう一度バイオエシックス並びに命という観点からとらえ返した新しい憲法制定作業も必要なのではな いかという御提起と受けとめました。

 私も、そのような考え方もあり得るのかなと思っております立場ですが、一つ、やはり我が国の場合に、例 えば、ドイツにおけるナチス・ドイツの悲惨がドイツにおいて憲法の中にも人間の尊厳ということを強く意識 した法体系をつくったのに比べますと、先ほど来先生がおっしゃいました歴史的健忘症といいますか、七三一 部隊や、それから、最近明らかになっております中国での毒ガス被害等々の我が国の対応を見ますと、必ずし も、私は、十分に、七三一でも南京大虐殺でも、あるいは、戦争中のさまざまな医師も加担したいろいろな医 療技術の操作にいたしましても、非常に人間の尊厳を侵しておったのは我が国においても同じであろうかと思 います。

 そのことに対して、ドイツでは、例えばドイツの医師会がみずから検証する作業もやってきた。しかし我が 国は、一言で言えば、歴史的健忘症に等しく来たのではないかという思いが私にもありますために、今新たに 憲法のさまざまな規範を生命倫理的な、バイオエシックス的な、命を基本としたものに持っていくに際して、 もう一度我が国の成り立ち、そして現状でもなお、毒ガス問題も含めて、日本の過去の負の遺産としての相殺 がなかなか済まされていない社会構造をとっている中ですので、そのあたりをどうお考えかということを一点 目、お願いいたします。

木村参考人 今先生の御指摘につきまして、既に私がるる御説明申し上げましたが、まさ に歴史的健忘症との闘いを出発点にしたバイオエシックスということで、これは、私たちの国のかつての政府 並びに軍部がアジア近隣諸国にいろいろな形での積極的な侵略行為をしたということのほかに、そういうこと も踏まえて、国内におきましても、例えばハンセン病患者への長期間にわたる立法上の差別の問題とか、さま ざまな問題がありまして、命の問題というのは大きな広がりを持っている。その大きな広がりを持っていると いうことを踏まえて、新しい憲法をつくる場合にはどうしたらいいかということを基本的に考えていく。つま り、命の尊厳を入れるということが、基本的には非常に重要なことになってくるというのが私の考えです。

阿部委員 二点目は、現状において、例えば今の生体の移植あるいは脳死からの移植にい たしましても、個人の意思というものを最大限尊重するような法体系もつくられておりますが、ただし、例え ば受精卵の取り扱いや、あるいは、今後問題になります人間の人体を用いたさまざまな医療技術ということに 関しまして、例えばフランスにございます生命倫理法のような、要するに、人体を一つの人権の主体とみなす ような、人間の体そのものを主体とみなすような法の枠組みをここに、生命倫理法というふうな近い名前でも たらすことによって、さらに、逆に言えば、人体への科学技術の負の影響といいますか、侵襲を食いとめられ るというふうに昔から思う立場に立っておりまして、何とか日本の中でも生命倫理法的な基本骨格法を、私の 場合は、今憲法を変えようというよりは、まずそのことをつくって何としてでも歯どめをかけていきたい。

 特に、実は私は小児科医で、先ほどの水島さんの御意見の中の、優生保護法やあるいは名を変えた母体保護 法が女性たちのある意味でのぎりぎりの選択であるということはわきまえながらも、逆に、余りにも軽んじら れている生まれ出るものの命ということも非常に感じざるを得ない立場でずっと暮らしてまいりました。

 そうなると、受精卵というものも、そもそも人体の最初の、そこからしか生まれないわけで、人権の発生の 大もとに置いておくようなもう一方の法規範がないと、科学技術の進歩と相チェック・アンド・バランスがき かないのではないかという観点に立っておりますので、先生の、フランスの生命倫理法的な取り組み、これは もう各国、事情と歴史と、例えば人権というのはフランスでも最大価値の根幹に置かれるようなものと思いま すから、そういう枠組みの中で出てきていると思いますが、我が国においても、まず人間の体、身体というも のにも人権というものをきっちり保障していくような枠組みについてのお考えを二点目はお願いいたします。

木村参考人 これは、先生のおっしゃることに私も個人的に全く賛成です。生命倫理法の ような形で新しい時代に対応した、例えば生殖医療技術にしろ臓器の移植にしろ、あるいは生命体の細胞の利 用にしろ、そういう形での対応がこれは緊急かつ極めて重要な問題になる。なぜならば、それによって私ども の人格権が侵害される可能性が極めて多いからなんですね。

 これは、時間が長くなりますので申しわけございませんけれども、アメリカでは、先生方御存じのように、 ジョン・ムーアという患者さんがカリフォルニアにおりまして、この人が脾臓の手術を受けたんですが、何回 も病院に来るように言われたので、余りにも不思議に思って弁護士さんに連絡したら、コンピューターですぐ 探し出しまして、この人の脾臓の細胞の一部を利用して、それに特許をかけて特別の薬剤を開発していたんで すね。しかも、それを売却して巨大な利益を受けていた。非常にコンピューターというのはネガティブな面と ポジティブな面がありまして、医師が論文を書いていればすぐわかってしまうわけですね。しかし、それを患 者に知らせていなかった。

 それで、今、こういう時代になってきますと、私たちの体というのはどこの部分でも使えますし、特許をか ければ、これについて、脾臓はもう手術したので本人から離れている。例えば、中絶した胎児の胎盤その他は 本人には関係なく今利用されている状況ですね、化粧品のベースになったりしているわけですので。そういう 点から考えると、これは、人間の体の組織の一部をそれらの提供者である患者の許諾なく使っていいのかどう か。それで金もうけで、一銭も患者、生体細胞がなければ特許はかけられないわけですから、そういうことで いいのかどうかということは大きい問題で、アメリカも非常にこれは慎重に対応していますが、このケースで は患者側には利益の配分はないということになってしまって、立法が必要だということになっています。

 しかし、先生のおっしゃるように、新しい時代の中で、本当に私たちの髪の毛一本からつめの先に至るまで 、いろいろな形で金もうけの対象になる時代になってしまったんですね。そういう点について果たしてどれだ け私たちは認識があるかどうか。そういうことから考えると、ある意味では大変に恐ろしい時代になってきた 。そういう観点から、生命倫理法みたいのをつくりまして、そしてきちっとした対応をする必要があるという ふうに私は考えております。

阿部委員 では、最後の一問になるかと思いますが、実は私もことし年頭にベトナムに参 りまして、ベトナムの戦争資料館等々も拝見し、先ほど先生のお話にありましたが、今もって十万人近い、例 えばおじいちゃんがベトナム戦士であった人の孫が奇形を持って生まれたり、あるいはさまざまな健康障害を 持っているという現実を見聞してまいりました。

 現時点で、もう一方で大変気になりますことが、イラクでの劣化ウラン弾の使用問題でございます。

 実は私も、昨年と一昨年、二度イラクに参りまして、イラクの病院の中で、特に白血病の患者さんの実際を ちょっと拝見させていただきました。もともと小児科医で白血病の患者さん等の治療にもかかわってまいりま した私の目から見ても、非常に勢いの強い白血病と言うと変ですが、非常に重い、状態の悪い子供たちが、特 に湾岸戦争の以前と比べますと五倍から七倍の頻度、これはバグダッド大学の医学部の教授ともお話しして、 彼らのお持ちな疫学データを見た場合に、非常にふえている。この間の経済制裁の影響での栄養不良もあるだ ろうが、やはり何らかの遺伝子への作用が考えられるのではないかということを非常に案じて指摘しておられ ました。

 先ほどの先生のお話の中で、ユネスコのさまざまな規定の中にも、これから及ぼし得る未来の世代への影響 とか考えた場合に、現在の劣化ウラン弾の使用というのは、まだもちろんWHOでも害があるものと確定した わけではないのですが、要は確定されてからでは遅いというような側面もございまして、これは、私もイラク へは広島の市民団体と一緒に行ったのですが、ぜひとも今警鐘を鳴らしておく必要がある。

 あるいは、ドイツのNGOなどは、残っている劣化ウラン弾を防御服を着て全部取り除いておるような状態 で貢献をしておりますわけで、環境への負荷が証明されてからでは遅い。懸念、疑いがあるうちに対処しない と未来への責任は果たせないと思いますが、現状で、劣化ウラン弾使用、一九九〇年代から戦争の中で使われ ておりまして、このことに関して先生はどのようなお考えをお持ちかということを最後にお願いします。

木村参考人 今先生の御指摘のように、やはり未来のことは、それを踏まえて現段階で取 り組むべきであるということに私は賛成です。

 実は、アメリカにかつて、議会の技術評価局、オフィス・オブ・テクノロジー・アセスメントというのがご ざいまして、そこで、世界諸国の医療や健康やあるいは科学技術その他をめぐるいろいろな技術評価を議会に 直結の事務局を持っていたわけですね。そこには、ヒトゲノムを含む遺伝子研究の未来その他もあったわけで すが、ぜひ議会直結の何かそういう生命倫理の事務局のようなものがあれば、本当はすばらしいことになるか と思うんです。

 私は、技術評価局から依頼を受けまして、そのとき、今から二十年ぐらい前ですけれども、日本の高齢者の 、先ほど会長の御質問にありましたが、末期の医療について日本はどのような展望を持っているかということ 、例えばどういう形で患者をケアしていくのかというようなことを含めた日本の高齢者の調査をやる、それを 引き受けたんです。

 それで、アメリカに行って原稿を書きました。どうして書いたかというと、実は、日米科学技術協定という のがあって、厚生省のドキュメントはアメリカの国会図書館の中に来て読めるんですね。その当時厚生省のド キュメントは、普通の一般市民には読めないドキュメントだったんです、つまり公開されていませんので。そ れが、アメリカに来ていますと、アメリカは公開されているので、アメリカにいて、日本の厚生省のドキュメ ントを使って日本の高齢社会についての分析を行ったということができるわけですね。

 今の御質問の劣化ウランの問題につきましても、これは世界に先駆けて、平和国家であるところの日本が中 立な立場から、これらの現状その他について、例えば今も特定の大学で日本から行った研究者が枯れ葉作戦の 後遺症についての調査などをしておりますが、劣化ウラン爆弾の問題を含めて、こういうような研究調査を日 本こそがやはりでき得る極めて有利な立場にあるのではないかというふうに私は考えますので、先生のおっし ゃるような意味での未来に備えての調査をするということに私は賛成したいというふうに思います。

阿部委員 ありがとうございました。

中山会長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 木村参考人におかれましては、長時間にわたり貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございまし た。憲法調査会を代表して、心から御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

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