第169回国会 厚生労働委員会 第9号(平成20年4月22日(火曜日)) 抜粋 案件:
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律案(内閣提出第三二号)
〔前略〕
○茂木委員長 次に、阿部知子さん。
○阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
本日は、四人の参考人の皆さんに、本当にいろいろな意味で考えさせられる貴重な御提言をいただきまして、ありがとうございます。
思い起こせば、二年ほど前、岡部先生にも、感染症法の改正のときにもお越しいただいて、その後も一貫してこのインフルエンザ対策問題にリーダーシップを発揮していただいていること、先ほどどなたかの委員の中の御指摘にもありましたが、本当に敬服いたしますし、また、それに比べて、果たして政治の側は十分な準備をしてきたんだろうかということを、私はきょう改めて、ああ、問題かなと思ったことがありますので、まず冒頭、そうした問題をお話しさせていただき、岡部先生に質問をしたいと思います。
新しい形、新型インフルエンザというものは、二年前のここでの審議よりも、アジアの各地で、インドネシアあるいは韓国、中国、いろいろなところで発生しましたし、それから鳥から人への感染ということも現実に起こってきて、三百人くらいと言われている段階になったわけです。
今の国内での論議、あるいは、これはちょっと急に時間が前倒しになった感染症の審議なのですが、主にはワクチン対策や、あるいはそれまではタミフルの備蓄問題が論議されておりましたけれども、例えば、今後恐らく岡部先生は一番予見し得るお立場かと思いますが、この新型インフルエンザがはやるとすると、やはりアジアの国のどこかで鳥から人に感染し、そして、そのときは恐らく、例えば日本の国内であれば鳥の殺処分とかは可能なのですが、インドネシアで発生した場合に、インドネシアの現地の社会、経済、政治状況の中で、一番大事な、一番最初にやっていただく殺処分のような、ある意味で隔離ですよね、その病原体を隔離していくようなことには、政治の力が大きいというか、政府間交渉が大きいんだと思うんですね。
一方でそういう政治と、それから医学の世界と、今、本当に不思議なことなんですが、この間がないというか、この間をどうやって結んでいくかということが、実は、私から見れば、政治の世界でも医療ということが問題にならざるを得なくなっている時代だと思うんです。
特に岡部先生はWHO等でお仕事されましたから、果たして日本は、アジア各国からの情報の収集や、あるいはある意味での医療の、あるいは医療を超えた医療行政の、指導とまでは言いませんが、助言というようなことで、特にアジア地域で十分な役割を果たせているのか、あるいは、それに見合う人的なマンパワーはどうか。
実は、私、SARSのさなかに中国に行って、日本の厚生労働省から北京の大使館に行っている関係者は一人で、SARSとかはやはり非常に、現地の公衆衛生というか衛生状態、あるいは、どうやって蔓延を防ぐか、岡部先生たちが一生懸命、香港等々でもやっていただきましたけれども、病気、医学の分野と行政の分野、政治の分野というのは、すごく大事な時期に来たんだと思います。
岡部先生から見て、日本の厚生労働省はもっと何をなすべきか。私は、まずそういうことがあって、これは水際作戦ばかり言われますが、まず、発生する状況をとらえて、そこを未然にどう国際的にできるかということも第一なんじゃないかなと思いますので、その点をお願いします。
○岡部参考人 御質問どうもありがとうございます。昔の当直仲間からそういうような話を聞けてありがたいんですけれども。
政治と医療の間を取り持つのがなかなか少ないというのは全く事実だと思いますけれども、それは、阿部先生のような方々が医療のことを知りながらやっていただかなくちゃいけないと思います。
御質問のアジアのことについてですけれども、現在、新型インフルエンザあるいはパンデミックということが非常に注目をされていますけれども、もしこれが去った後に新型インフルエンザだけをやっていたら、これは何も残らないというふうに思います。
現在、アジアにおける情報の収集が的確かというと、やはり、かなりの部分がおくれたり、あるいは先方が話しにくいというようなこと。あるいは逆に、我が国が、例えば宮崎で起きた鳥のインフルエンザに関して早く他国に発信したかというと、決してそうではないわけですね。そういう情報の交換をきちんとできるようなことというのは、ある事件が起きたときではなくて、通常から非常に重要だと思います。そういう意味でのアジアへの貢献、通常からの対話をやっておく。
例えば、私たち感染症研究所では、類似したような機関でCDCというところがあるんですけれども、中国のCDCと、あるいは台湾CDC、それから韓国CDCというようなところと研究所の友好関係を結んで、情報提供をやろうと言って、意見交換が随分進むようにはなりましたけれども、全部それで解決できるわけではない。
それから、先生おっしゃったように、あるところにたった数人がぱらぱらっといるだけでおしまいになる。あるいは、ある国に援助をしたけれども、五年のプロジェクトが終わったら全部引き揚げて、結局はフォローができていないとか。そういう意味では、もう少し継続的に対話を続けていくということが、新型インフルエンザに限らず、今後、こういう感染症というのはほかにも起きると思いますから、地道な関係を築き上げていくということが必要だと思います。
○阿部(知)委員 私はきょう、清野先生の新しい経鼻ワクチンのお話も伺いながら、本当に、国内だけでなくて、広く世界、特にアジアでのそうした有効なものを届けるというのが日本の国際貢献の一番ではないかと思いながら伺った次第ですので、その意味でも、岡部先生にはさらにさらに取り持っていただいて、本当の意味で、世界じゅうでこうしたことが未然に防止されるように、ぜひお願いしたいと思います。
そうした前提をお願いした上で、次に、一に大事なのは国際的にも国内的にも情報であることは変わりはないと思うのですが、今度、国内でございますと、この情報ということをめぐって、受け手の側、すなわち国民の側、私は小児科医ですから、そういう目で見ると、お母さんがどう思うかとかいうことを考えると、今、非常に国民は、ある意味で過大評価したり、ある意味で無視したり。これは医者をやっていて思うんですけれども、ちょうど寺田寅彦さんの言葉で言われたように、ほどよくこの実態を知るということがなかなか難しい時代になっているように思います。
岡部先生の書かれたきょうの資料集の中でも、私はきょう思いましたが、例えば、プレパンデミックワクチンと言われると、これはあくまでも、人が鳥インフルエンザにかかって、その人からとったワクチンですが、新型インフルエンザワクチンとは全く違うものですけれども、この間のマスメディア報道では非常にここが混同されて、一気にパニック願望的なものも起こりかねない状況が私は少し懸念されるんですね。
岡部先生から見て、例えば、このプレパンデミックという言葉が適切なんだろうかと。私は、逆に、清野さんがお使いになった、鳥インフルエンザワクチンの人にうつったものというふうな言い方の方が今のところ実態なんじゃないかなと思うんですが、このあたりはどうでしょう。言葉が与える影響というのは大きいと思うので、お願いします。
○岡部参考人 御質問ありがとうございます。
全く同意見でありまして、例えば、今のワクチン、新型インフルエンザワクチン承認とか、非常に誤解を与える形で、私たちは、むしろプレパンデミックの方がまだわかりやすい。あるいは、鳥インフルエンザワクチンに使った原型であるとか、その辺の説明がなされないうちに名前として動き出してしまうというのがあります。
これも、新型インフルエンザ対策という言葉が先に出ていますけれども、新型インフルエンザは必ずしも大ごとではなくても起きる可能性があるので、これはパンデミックに対する、つまり地球規模で患者さんがふえたときに対する対応であるということですので、そのネーミングというのは非常に重要だというふうに思います。
私たちは、しかし、もうある程度決まったものに対してはやはりしようがないというところもあるので、ただ、息長く、そこの部分をきちんと、メディアの方も含めて、御説明を我慢強く続けていく必要があるというふうに思います。
○阿部(知)委員 先生のお話の中でも、通常のインフルエンザ対策の持続性が大事なんだというお話でしたので、ぜひまたそのようにもお願いしたいと思います。
三点目というか、安全性ということがどなたにとっても一番大きな問題で、私が今回、一番懸念しますのは、この「プレパンデミックワクチン」の安全性を検証するために六千人に打ってみるという、今まで、第一相が百二十、第二、第三が三百人ずつですか、六千人規模にして安全性を確認するという段階であるし、でしかないしというところなんですね。
そうなると、この安全性には二つの意味があると私は思うんですけれども、一つは、それを受けた方が起こす副作用ですね、これは従来言われていたところ。もう一つ、これは私が懸念しているだけなのかもしれませんが、そういう新しいワクチンを六千名に打つことで、逆に言うとウイルス変異を惹起しまいか、起こしやすくすることはないのか。これは今のところ、ある程度世界に、鳥から人にうつった原型はあるんですけれども、六千人が今度新しい、ある意味で培地に人間がなるわけで、そちらの側の安全性、ウイルス変異の安全性については医学界はどういうふうに考えるんだろうというのを、これは済みませんが、岡部先生と清野先生に一言ずつお願いします。
○岡部参考人 後半の部分の問題ですけれども、これは、似たような議論は、鳥に対する鳥インフルエンザワクチンの接種がいいかどうかということとかなり共通していると思います。
パンデミックワクチンあるいはプレパンデミックワクチンもいずれも不活化型ワクチン、病原体を殺してあるので直接の変異や何かを誘導することはないと思いますけれども、中途半端に抑制した場合に、わからないうちに周りに病原体がはびこってしまって、その結果として変異が出やすくなるということはあり得るので、例えば鳥に対する鳥インフルエンザワクチンの接種というのは日本ではやらないことになっておりまして、私も反対の方なんですけれども、しかし、人の場合にはその変異のスピードが速まるかもしれないけれども、しかし、現在の起き得ることに対して防御しなくてはいけないのではないかということが多分優先しているのではないかと思います。
おっしゃるところはあり得るのかもしれませんけれども、そこのバランスを考えた上での必要性というふうに考えています。
○清野参考人 御質問ありがとうございます。
その六千人に打ったワクチン自体は、もう完全にウイルスではない、もう死んでいる、まあたんぱく質のようなものですからそれ自体が変異するということは考えなくていい。それで、その六千人に鳥インフルエンザが集中的に感染して、その人たちの中で、よく鳥とか豚の絵で出てくるように変異するということは、確かに可能性としてはゼロではありませんが、恐らく都市部にいるような方に打たれることも多いと思いますので、その可能性も非常に低い。ですから、議員がおっしゃったような可能性は非常に低いというふうに医学的には考えられると思います。
○阿部(知)委員 そうなると、打たれる御本人の安全性という方が第一なんだろうと。これは、税関の職員の皆さんのお体のことも考えますと、さっき、藤井さんのお話の中では、安全性と有効性が確認されたら積極的に打ちたいと。私もそうなんだと思うんですね。だって、一番水際で活躍してくれている方が被験者になった場合に、ある種大切な人材を失いかねないわけですから。
私は、今後、もしこの六千人ワクチン接種計画があった場合には、本当に十分な自発性と、そして、安全性についてはまだこれは今後の要素もある、今は安全性を確認するためのものであるんだということをきちんとお伝えいただきたいと思うんですね。そうでないと、一番大事な検疫の職員が被験者というのは、私はちょっと懸念しております。
最後に、光石先生にお願いしたいですが、いずれにしろこれから、例えば経鼻ワクチンにしろこの「パンデミックワクチン」にしろ、未知の実験をしていかなきゃいけない。ある種、言葉の印象がよくないですけれども、人体を用いた実験になってくる、被験者が必要となる。そのときの保護規定が日本ではほとんど整備されていない。私はこっちの方を早急に整備すべきでないかと思うのですが、もう少しその点について御意見があれば賜りたいと思います。
○光石参考人 どうもありがとうございます。
やはり、そういった被験者に対する説明と同意のもっと前に、先ほども申し上げましたが、要するに、余りインフォームド・コンセントにもたれかからないようにするにはどうしたらいいかということを考えますと、このような研究、プレパンデミックワクチンの研究についても、やはり審査システムというものがよほどしっかりしていないと、デザインが本当にいいのか、あるいはプラシーボ対照がなくていいのかも含めてなんですけれども、研究のデザインがどの程度大事なのかということをよほどよく検討した上で、今度は被験者一人一人の同意の問題に入っていくんですね。
だから、そういうことを考えますと、治験を除きますとこれが法制化していない。ということは、その審査システムというものが、例えば今回の審議会ですか、ではそれが審査システムとしての立場としてやっているのかといいますと、私の見るところではどうも専門家しかいない。そうなりますと、審査システムでは、もう少し素人の人にも入ってもらって、このデザインで本当に大丈夫かというようなことの審査もしていただく必要がある。
だから、やはりそれを考えますと、この立法というものを、しっかり審査システムなんかの立法をしないと、何か、国がこういうふうにしますよと言ったら、その被験者たち、六千人の人たちはもうそれに従わざるを得ない、希望する人とはなっていますけれども、そうはなかなかいかないのではないか。そういう人たちのことを私が一番心配するのはそういうことでございます。
○阿部(知)委員 私もその点は同じように思いまして、審査のシステムということが、これは、清野先生たちの御発案のも本当にすばらしいし、そして、清野先生は、だからどういうことをクリアすれば本当にこれが使えるようになるのかを明らかにしてほしいというふうに御提案であったんだと思います。
最後に、岡部先生にまた戻って済みませんが、そのあたりはどのようにしていったらいいのかというのと、それから、私はもう一つ、先ほど光石先生がおっしゃった子供に対して安全性の確認のために治験するというのは、これは親の同意があってもちょっとやはり今の日本の法体系では考えられないことなので、もしかしてメディアが先行してそういうことを言っているのであれば、それは否定していただいた方が小児科医師としては心が安らぎますし。
審査システムをどうするか、そして、子供の治験、安全性についての問題、懸念ということの二点、最後にお願いします。
○岡部参考人 お答えします。
プレパンデミックワクチンの六千人規模というのは、研究計画は発表になっているけれども、私は、あれはまだ倫理委員会等々を通っていないというふうに認識しています。研究班が構成されて、それでスタートになるので、デザイン等々についても治験委員会は多分通っていないんじゃないかと思います。ですから、そこの部分は先行しているのじゃないかと思います。
私も、参考人の方々あるいは先生方がおっしゃっているように、ある職業だからやるんだということではなくて、そこはできるだけ自発的な意思に基づいて、本当に嫌な人は嫌だと言えるような形のものでないと治験ではないというふうに言えると私は思っています。
それから、小児に対する治験というのはなかなか難しいところで、小規模で今度行われる予定というふうには聞いているんですけれども、私も新生児や何かの医療をやっていたことがありますが、例えば新生児の医療は、結局そういうものが集積していないから使えないという薬がほとんどだったわけです。
しかし、それでも理論的には必要なもので使わざるを得ないという状況が、先生もそうですし、我々も若いときにそうだったように、ある時期になるとどうしても、子供さんに全部オーケーをとるわけにはいかないので、そこは親御さんの同意ということになると思いますけれども、きちんと説明をした上で、やはり小児の方でも、結局、多くの方に使うという前提としては、少数の方でできるだけ安全と思われることを確保して、担保しながらやる、万一のときにはそれに対してきちっとした補償ということを考えながらやるのが治験であって、そうしながらの治験は必要だというふうに思います。
○阿部(知)委員 成人でも安全性は確認されていない段階ですので、今、岡部先生に御指摘いただいたのは、その後の計画になると思います。
最後ですが、質問ではなくて、藤井さんに一言お礼です。日々本当に大変なお仕事を、そしてこれだけのいろいろな取り組みをしていただいてありがとうございます。これからも、また引き続き国民のためによろしくお願いしたいと思います。
終わらせていただきます。
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