阿 部 知 子 ◇ 対 談 集


上原公子さん(「脱原発をめざす首長会議」事務局長)と語る

〜自治体発の原発ゼロ


上原公子(うえはら・ひろこ)さん

宮崎県宮崎市出身。元東京都国立市長、元東京・生活者ネットワーク代表。国立市議会議員、水源開発問題全国連絡会事務局、国立市景観裁判原告団幹事などを経て、1999年に国立市長選で初当選(東京都初の女性市長)。2期8年間務め、2007年の市長選には出馬せず退任。「脱原発をめざす首長会議」の設立呼びかけ人の1人で、現在、同会議の事務局長。最近の著書に『脱原発で住みたいまちをつくる宣言首長篇』(共著、影書房)など。



 【対 談】 未来のいのちを守るために国会と地域から脱原発の声を

私が事務局長を務めている「原発ゼロの会」は、原発のない社会をめざす超党派の国会議員が参加して2012年3月に結成しました。その約1ヵ月後に誕生したのが、「脱原発をめざす首長会議」です。国会の中から未来に向けたエネルギー政策を提案している私たちに対し、こちらは脱原発を表明する自治体の首長・元首長が全国各地域から原発ゼロに向けた発信を続けています。今回登場いただいたのは、その事務局長を務める上原公子さん。同じ志を持つ事務局長同士、いまの思いを語り合いました。(5月9日対談)

 ■安倍政権になっても会員数は増加中■

阿部
 まず、「脱原発をめざす首長会議」設立のいきさつをお聞かせください。

上原
 2012年1月に横浜で開催された「脱原発世界会議」で、「地域発・原発に頼らない社会のつくりかた」というセッションがあったのですが、そこに福島第一原発を抱える福島県双葉町の井戸川克隆町長(当時)や20H圏内にある南相馬市の桜井勝延市長などたくさんの自治体首長や首長経験者らが参加し、意見を交わしました。そのとき、「こうした集まりが1日で終わるのはもったいない」という話になって、脱原発をめざす首長らが集まる組織をつくろうという意見で一致しました。会員は区市町村の首長や元首長で、設立時に参加したのは全国35都道府県の69名。安倍政権になって減るかと思いましたが、いまは94人に増えてます。

阿部
 逆に「原発ゼロの会」は、2012年と13年の選挙で大幅にメンバーが減りました。一時は94人いましたが、現在は66人。「首長会議」の発言力は増していると思います。

上原
 いま政府は必死に原発を推し進めようとしていますが、市民を守る立場にある首長からすれば、責任を負えない原発を受け入れられるわけがない。だから、勇気を持ってノーの意志を示す首長がどんどん出てきている。政府の政策に異議申し立てをするために集まったこのような首長連合体は、初めてのものでしょう。会員の中には、以前は原発を容認していた保守系の首長も少なくありません。いずれ、「首長会議に入っていた方が発言しやすい」というふうになればいいですね。
 ドイツが脱原発と再生可能エネルギーに舵を切ったのは、自治体からの発信が大きな推進力となったからです。私たちもそうした役割の一端を担えればと思ってます。

 ■福島を完全に無視した新エネルギー基本計画■

阿部
 4月11日に閣議決定された新しいエネルギー基本計画は、原発事故後、初めての計画なのに、省エネや再生可能エネルギーについての数値目標も設定されず、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働だけが突出したような内容になりました。

上原
 安倍政権は「国民がなんと言おうと再稼働を進める」という姿勢で、最初からそれありきでことを進めようとしています。この計画を見て、福島の人たちが「自分たちを完全に無視している」と怒ったのは当然のこと。福島の事故で、ドイツ、イタリアはじめ世界のエネルギー政策が大きく転換しようとしているのに、当事国の日本は、まるで事故がなかったかのように平気でこんなエネルギー計画を出してくる。とても恥ずかしいですね。

阿部
 呆れるのは、再稼働だけでなく、海外にまで原発を持っていこうとしていることです。トルコとアラブ首長国連邦への原発輸出を可能にする原子力協定が4月に国会で承認されました。良識を持った人ならばどう考えてもおかしいと思うでしょう。
 しかも、この国会での採決に、自民党だけでなく野党第一党の民主党までもが党議拘束をかけて所属議員に賛成を強要した。「ゼロの会」のメンバーで、仕方なく棄権を選んだ議員の中には、被災地の出身者もいます。地元が原発災害を受けたのに、よその国なら原発を建ててもいいなんて言えるわけない。
 こういうのを見ると、原発って戦後の総体なんだとつくづく感じる。隅々まで組み込まれていて、「やめよう」とか「輸出ダメ」と言うと、総掛かりで口をふさぐ。根は深い。

上原
「命より金」という考えが戦後ずっと蔓延しているんだと思うの。国民もそこから抜け出せない。だから、国民の多くが脱原発を望んでいるのに、選挙では原発が争点にならない。日本とドイツの違いは突き詰めれば主権者である国民の差ではないでしょうか。

 ■地震や津波を想定しない実効性に欠ける避難計画■

阿部
 原子力規制委員会が決定した新しい原子力災害対策指針は、原発から30H圏内にある自治体に避難計画(地域防災計画)の策定を求めています。けれど、自治体からすればどうしたらいいか困惑しますよね。

上原
 実際、該当する自治体のうち4割が策定していません。圏内の人口数十万人が速やかに避難できる実効性ある計画なんて、つくれるわけがないでしょう。
 では、これまでに策定された避難計画はどういうものか。驚いたことに原子力災害と地震をリンクさせていないものがいくつもある。原発事故の際に使う避難道が、地震で寸断されたり津波で浸水するのを想定していないんですね。漫画みたいな話でしょ。国から言われて無理矢理つくったけど、本当にそれで避難できるとは誰も思っていない。
 だから私たちが各自治体に本音を聞くと、不満がたくさん出てくる。本当はそれを言いたいけれど、国から圧力がかかるから言えない。自治体はみんなとてもいら立っています。

 ■市民の安全を守る首長の責任と覚悟■

阿部
 上原さんとは長いつき合いですが、置かれた立場は違っても、考え方や方向性などすぐに共有できる間柄です。その2人が、原発ゼロをめざすために集まった国会議員と自治体首長の組織でそれぞれ事務局長をやっているのは偶然ではないかもしれません。

上原
 私と阿部さんは、命を最優先に考えてきた点で共通しています。阿部さんは、医療の現場から、私は食品や環境の問題に取り組む市民運動から政治の世界に入ってきましたが、そこにあるのは「命を守る」という視点。原発は、まさに未来の命に関わる問題です。

阿部
 原発事故を経験したいまこそ、安倍首相のようなはマッチョな思考ではなく、「命を守る」という女性的な感性が必要でしょう。

上原
 「命を守る」責任は、とても重いですが、首長の仕事はその責任を持つ覚悟がなくてはできません。だから私は市長をやっていたとき、いい加減な発言は絶対にしませんでした。その発言や判断で住民の命を危険にさらすことだってあるわけですから。その意味では医師と同じだと思います。

阿部
 医者は「責任持つ」と言わないと患者さんから信頼されない。逆にいえば、命を預かる責任を持つから、必死に努力するんです。

上原
 私たちは住民の命を守る覚悟を持った首長らの集まりです。この覚悟は揺るぎません。ただ、脱原発へ向けた立法化や政策転換を進めるには国会に仲間が必要。だから、現実的な政策提言を続けている「原発ゼロの会」は大切な存在です。

阿部
 ぜひ、これからも一緒に闘いましょう。

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(「阿部とも子News ともことかえる通信No.48」2014年6月号に掲載)

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