2020/07/03

医療者を含む労災の申請件数はけた違いに少なく、何と国家公務員災害補償への報告はゼロ!「迅速な救済」には程遠い実態が明らかに。

 

新型コロナウイルス感染症と労災および公務災害に関する再質問の答弁書が閣議決定されました。

 

医療者を含む労災の申請件数はけた違いに少なく、何と国家公務員災害補償への報告はゼロ!「迅速な救済」には程遠い実態が明らかに。

 

令和二年六月十九日

 閣衆質二〇一第二四六号

 

新型コロナウイルス感染症と労災および公務災害に関する質問主意書

答弁書

令和二年五月二十七日提出の新型コロナウイルス感染症と労災および公務災害に関する質問主意書への答弁書(内閣衆質二〇一第二一〇号)が令和二年六月五日に閣議決定された。しかしその内容は、エッセンシャル・ワーカーとされる労働者が、日々、安全と健康を脅かされながらコロナ禍に対峙している事実に対して、あまりにも鈍感であり、危機感が欠落していると言わざるを得ない。

このことを踏まえ、以下再質問する。

一 労災補償について

1 新型コロナウイルス感染症による直近の労災請求件数は、六月八日に公表された、請求件数百二十六件(うち医療従事者九十四件)、認定件数十五件(うち医療従事者十二件)である。しかし、全国各地で院内感染や集団感染が相次ぎ報告される中、「毎日新聞」六月八日朝刊の記事によれば、独自の取材により、新型コロナウイルスの院内感染が全国の九十九医療機関で発生した疑いがあり、患者や医療従事者が少なくとも二千百五人が感染していたことが明らかになったという。感染者の内訳は患者千二十八人、医療従事者等千十三人、その他(事務職員や出入り業者等)五十五人、不明九人という。

  厚労省は四月二十八日通達「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」において、医療従事者等について「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる」と明記している。本来であればこの千十三人は迅速な労災請求・認定に至っているはずではないのか。医療従事者の労災請求件数九十四件、認定件数十二件と、けた違いに少ないが、何に起因していると認識しているのか。政府として見解を明らかにされたい。

 

2 多くの事業所において、安全衛生上の法的義務についての使用者の認識不足により、労働者保護の理念がないがしろにされ、当然の権利である労災請求に至らないのではないかと考えられる。厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A」問八に「事業主の援助」とあるが、法的には「事業主の助力義務」であり、労働者災害補償保険法施行規則第二十三条に、「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続きを行うことが困難である場合には、事業主はその手続を行うことができるように助力しなければならない」と明記されている。 

 現に感染して入院加療している労働者が請求手続きが困難である場合には、事業者側に手続を進めるよう促すべきであり、さらに言えば事業所自体が院内感染対応に追われ、小規模の介護事業所等は休業や倒産の危機もあり得るなど、果たすべき役割を行使できないケースも考えられる。所管の労働基準監督署はこうした事業所にきめ細かく対応し、請求・申請のサポートや指導監督を積極的に行うべきと考えるがどうか。

1及び2について

労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)は、同法に基づく補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者の同法に基づく請求(以下「労災請求」という。)に基づいて行うものであり、労災請求については、請求に要する期間並びに当該請求の調査及び審査に要する期間として一定の時間を要するものである。なお、御指摘の「千十三人」には、地方公共団体が開設する医療機関の医療従事者等同法に基づく補償の対象でない者も含まれているものと考える。

医療従事者の新型コロナウイルス感染症に係る労災請求については、厚生労働省において、令和二年五月十四日付けで、公益社団法人日本医師会等医療関係団体宛てに医療従事者の労災請求の勧奨や請求手続における協力等に係る要請を行ったところであり、また、都道府県労働局においては、集団感染が発生した医療機関を把握した場合、当該医療機関に対して、同旨の要請を行っているところである。

さらに、医療従事者以外の新型コロナウイルス感染症に係る労災請求についても、同省において、同日付けで、労使団体宛てに労働者災害補償保険法施行規則(昭和三十年労働省令第二十二号)第二十三条の規定の内容を含め、労災請求の勧奨等に係る要請を行っているところであり、引き続き、新型コロナウイルス感染症に係る労災請求の勧奨に努めてまいりたい。

 

3 答弁書ではクラスター対策班の役割について、「医療機関や社会福祉施設等における集団感染を防止することが重要と認識しており、同省において、全国で発生した集団感染の事例を収集している」と述べている。ならばその調査対象の中には、労働者が感染した際の詳細な実態把握並びに救済状況が当然含まれなければならない。介護・障害福祉などの社会福祉施設および居宅介護サービス事業所などについて、政府が把握している集団感染の事例数を明らかにされたい。また、それらの事例のうち、労働者死傷病報告が提出されている件数と労災請求の件数を明らかにされたい。

 

3について

令和二年六月十五日時点で、厚生労働省が把握していた社会福祉施設等において発生した新型コロナウイルス感染症の集団感染の事例は、六十一件であり、これらの事例について、同日時点で、労働基準監督署長が労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第九十七条の規定に基づく労働者死傷病報告(以下単に「労働者死傷病報告」という。)を受理した事例は七件、報告件数の合計は十八件であり、労災請求があった事例は七件、請求件数の合計は十五件である。

4 ⑴ 答弁書において、医療機関における集団感染の事例は八十五件であり、うち、労働者死傷病報告を受理した事例が十三件、報告件数は六十八件という。ここで言う集団感染の「事例数」「受理した事例数」「労災請求の事例数」は、医療機関の数という意味か。用語の意味を明らかにされたい。

(1)について

御指摘の「八十五件」については、令和二年五月十日時点で、厚生労働省が把握していた集団感染の事例のうち、医療機関において発生した事例の件数であり、このうち、同年六月一日時点で、労働者死傷病報告を受理した医療機関の数が十三件であり、労災請求があった医療機関の数が十一件である。

 

⑵ 医療機関の集団感染事例八十五件のうち、労働者死傷病報告を受理した件数は十三件しかない。圧倒的に死傷病報告の提出数が少ない原因は何に起因しているのか。政府として見解を明らかにされたい。

 

   (2)について

お尋ねの「死傷病報告の提出数が少ない原因」については、集団感染が発生した事業場において労働者死傷病報告の提出に至っていない理由は個々の事業場の状況によって様々であると考えられることから、一概にお答えすることは困難である。

 

5 答弁書の「二の4について」で、死傷病報告の提出について「勧奨に努めている」とある。死傷病報告の速やかな提出は、労働安全衛生法上の事業者の義務である。政府は、死傷病報告の提出について、勧奨ではなく労安衛法違反の是正勧告を行うべきである。政府として見解を明らかにされたい。

5について

新型コロナウイルス感染症にかかった者に係る労働者死傷病報告については、都道府県労働局及び労働基準監督署において、事業者に対して提出の勧奨に努めているところであるが、労働安全衛生規則第九十七条の違反が認められた場合には、事業者に対して、その是正の指導等を行うこととしている。

 

6 答弁書では、認定事例に関する情報の公表について検討したいとあるが、六月八日には、都内の病院に勤務し新型コロナウイルス感染症に感染した看護師が、三週間の調査で労災認定されたと報道されている。こうした認定に関する具体的な報道は、労災請求を促す上で非常に大きな効果を持つ。政府は、認定事例の公表について、いつまでにその検討を終えるのか。検討の期限を明示されたい。

6について

労災認定を行った事例に関する情報を公表することについては、個人情報保護の観点にも配慮しつつ、検討しているところであり、現時点で検討の期限をお示しすることは困難である。

 

7 従前の認定事例では、結核病棟の看護師など、その職場の環境条件や業務自体に感染の危険性がある場合には「特に反証のない限り」労働災害・公務災害が認定されてきた。例えば、一九七七年には保育所の保育士が子どもから風疹に感染したとして公務災害の認定を受けている。この時の認定要件は次の三つであった。(「公務災害四〇〇例とその解説」ぎょうせい)

① 担当クラスで風疹の子どもと接触していた。

② 家庭と自宅近隣に風疹患者がいなかった。

③ 医学的意見からも風疹は近接(密接な接触)感染により感染する。

今回該当するあらゆる労働者について、積極的な反証のない限り迅速に業務起因性を認め、労災認定すべきと考えるがどうか。

 

7について

ご指摘の「今回該当するあらゆる労働者」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務に従事する者(以下「医療従事者等」という。)については、新型コロナウイルス感染症にかかった場合、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象としているところである。また、医療従事者等以外の労働者については、医療従事者等と異なり、医学的知見により業務と疾病との因果関係が確立されておらず、医療従事者等と同様の取扱いとしていない。 

 

二 公務災害について

1 答弁書では国家公務員の公務災害について、人事院規則一六〇(職員の災害補償)第二十条の規定に基づき、補償事務責任者が新型コロナウイルス感染症による災害について実施機関に報告した件数はゼロ件との事である。しかし、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での業務に従事していた国家公務員が感染したとの発表が厚労省からなされ、バーレーンに派遣中の海上自衛官が感染したとの発表が防衛省からなされるなど、公務中の国家公務員の感染が複数報告されている。当該省庁はこれら職員の使用者責任に基づき補償義務を負っているところ、報告件数ゼロ件とはどういうことか。説明を求める。

 

1について

お尋ねの厚生労働省の職員については、令和二年六月十五日時点で、同省の補償事務主任者が調査中であり、公務上の災害と認められる場合には、人事院規則一六〇(職員の災害補償)(以下「規則」という。)第二十条の規定に基づき、速やかに実施機関に報告を行うこととなる。また、お尋ねの海上自衛官については、特別職の国家公務員であり、防衛省の職員(一般職に属する職員を除く。以下「防衛省職員」という。)の公務上の災害に対する補償については、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)は適用されず、同条の規定に基づく報告は行われない。

 その上で、防衛省職員の公務上の災害に対する補償については、防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和二十七年法律第二百六十六号)第二十七条第一項において国家公務員災害補償法の規定を準用するものとされており、防衛省職員の災害補償に関する政令(昭和四十一年政令第三百十二号)第一条の規定によりその例によるものとされる規則第二十条の規定による報告は、同月十日時点で、一件である。

 

2 公務災害において補償事務責任者による報告とは、申請や請求によらず「職権探知主義」に基づいて「国が使用者責任において補償を行うものであることから、被災職員からの請求を待つことなく、国が自ら公務災害であるかどうかの認定を行う」とされている。しかし、当事者からの申請や請求を認めないことは、国家公務員災害補償法第二十三条「この法律に定める補償の実施については、これに相当する労働基準法、労働者災害補償保険法、船員法及び船員保険法による業務上の災害に対する補償又は通勤による災害に対する保険給付の実施との間における均衡を失わないように十分考慮しなければならない。」における「均衡」を損なう事実となりうると考えるがどうか。                                             

 

3 人事院は国家公務員災害補償に当たっては、国家公務員災害補償法第三条に照らせば申請や認定の状況を取りまとめ把握する立場にあり、不適切な運用に関しては厳しく是正する責務を負っている。また二〇〇七年の災害補償制度研究会報告書において、「請求主義への転換に向けて制度の見直しを行っていくことが必要」とされていることから、新型コロナウイルス感染症による公務災害については各省庁に積極的に申請・請求を促し、迅速な認定・救済を図ると同時に、人事院において公務災害を取りまとめ、統計資料として公表すべきと考えるがどうか。

 

2及び3について

お尋ねの「「均衡」を損なう事実」の意味するところが必ずしも明らかではないが、補償事務主任者は、規則第二十条の規定に基づき、負傷し、若しくは疾病にかかった職員又は死亡した職員の遺族からその災害が公務上のもの又は通勤によるものである旨の申出があった場合は、速やかに実施機関に報告しなければならないとされ、実施機関は、この報告を受けたときは、規則第二十二条第一項の規定に基づき、その災害が公務上のものであるかどうか又は通勤によるものであるかどうかの認定を速やかに行わなければならないとされているところである。新型コロナウイルス感染症について、人事院においては、これまでも、実施機関に対して、規則第二十条の規定に基づく報告及び同項の規定に基づく公務上の災害であるかどうか又は通勤による災害であるかどうかの認定を速やかに行うよう指導しており、また、国家公務員災害補償法に基づく公務上の災害の認定状況については、毎年度、規則別表第一の各号に掲げる疾病ごとの認定件数を取りまとめ、公表しているところである。

 

三 地方公務員の公務災害について

1 地方公務員災害補償基金について、五月二十七日時点で請求数が四件と極めて少ないが、この原因について、政府としての見解を明らかにされたい。

 

2 各自治体に積極的な申請・請求を促し、認定事例の概要を公開すべきである。特に、地方公務員災害補償基金を所管する総務省が、その責任において、請求の促進や認定事例の概要公開について、同基金を指導すべきと考える。この点について政府の見解を示されたい。

 

1及び2について

地方公務員災害補償基金(以下「基金」という。)が行う補償は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二十五条第二項の規定に基づき、補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者の請求に基づいて行うこととされており、請求件数の多寡について評価を行うことは困難であるが、総務省においては、令和二年三月二十六日付けで、各地方公共団体宛てに通知を発出し、新型コロナウイルス感染症による公務上の災害及び通勤による災害に係る補償について職員に周知するよう依頼するとともに、基金においては、同年五月一日付けで、基金の主たる事務所から従たる事務所宛てに、新型コロナウイルス感染症による公務上の災害の認定における取扱いについて通知を発出し、請求に係る相談があった場合には、公務上の災害の認定における具体的な取扱いを懇切丁寧に説明すること等としたところである。

また、新型コロナウイルス感染症による公務上の災害及び通勤による災害に係る補償の請求及び認定の件数については、現在、基金のホームページで公表しているところであり、認定を行った事例に関する情報を公表することについては、個人情報保護の観点にも配慮しつつ、基金において適切に対応されるものと考えている。