2024/01/09

【質問主意書・答弁】カネミ油症患者の全面救済とカネミ油症事件の検証等に関する質問主意書

令和 5年12月 8日に提出した質問主意書「カネミ油症患者の全面救済とカネミ油症事件の検証等に関する質問主意書」が同22日に答弁が返ってきました。

“ダイオキシン類が混入した食用油” が原因で起きた『カネミ油症事件(1968年)』ですが、“次世代”にも影響が出ていることが懸念されています。

衆議院H Pからも見れます。

令和五年十二月八日提出
質問第一三〇号
 

カネミ油症患者の全面救済とカネミ油症事件の検証等に関する質問主意書

提出者  阿部知子


 カネミ油症事件は、一九六八年、福岡、長崎両県を中心に西日本一帯で、猛毒に汚染された食用油を経口摂取したことによって発生した大規模で深刻な食中毒事件である。汚染油は、カネミ倉庫(株)(北九州市)が同年二月上旬に製造したカネミライスオイルと特定されている。原因物質は、鐘淵化学工業(株)(現:(株)カネカ/兵庫県高砂市)が製造し油の脱臭工程で熱媒体として用いられたPCB(ポリ塩化ビフェニル)、さらにPCBの過熱利用により生成したPCDFなどのダイオキシン類である。
 臨床症状は、ざ瘡様皮膚・色素沈着・マイボーム腺過多などが特徴で、全身倦怠・頭痛・異常感覚・気管支炎・爪の変形など「病気のデパート」と称されるほど多種多様で、事件発覚から五十五年を経ても根治療法は開発されておらず対処療法に頼っている。
 事件発覚時、一万四千人超が被害を届け出し、実際の被害者は数万人に上ると推定されている。しかし、二〇二三年三月末現在、認定患者は二千三百二十一人(死者含む)に留まっている。
 当時、被害妊婦の流産や死産が多発する一方、ダイオキシン類が引き起こす色素沈着が強く出た新生児は『黒い赤ちゃん』と呼ばれ社会に衝撃を与え、油症患者へのスティグマにもなった。体調悪化による失業、進学断念、偏見差別による結婚の破談や離縁、自殺など、人権を脅かす被害も多く、被害者らは何重もの困難を背負わされている。
 二〇一二年の「カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律」により、厚生労働大臣及び農林水産大臣は、カネミ油症患者に関する施策の基本指針を策定することとなった。原因企業のカネミ油症患者に対する医療費の支払等について国の支援施策を講ずる仕組みもできた。認定患者に対するその支払額は、国が健康調査支援金の名目で年間十九万円とカネミ倉庫が医療費について五万円、合計年間二十四万円である。到底、被害の大きさに見合うものではない。
 また、カネミライスオイルの製造時期の特定、被害が発生した府県の取組の強弱、油症被害認定の方法や厳しい基準により、認定に至らない患者が相当数いる。彼らは同法の外に置かれたままである。
 さらに、油症による被害は、直接食した被害者(油症一世)に留まらず、次世代にも症状が現れている。次世代被害者は、ざ瘡様皮膚、色素沈着、全身倦怠、頭痛等の症状があっても、ダイオキシン類の血中濃度が低く、ほとんどが認定されていない。二〇二一年度から全国油症治療研究班(事務局・九州大学、辻学班長)は、油症二世・三世(認定患者の子や孫)の健康調査を開始し四百二十一人に持病や自覚症状を尋ねるアンケートを実施している。本年二〇二三年六月二十三日、その結果の一部が公表された。先天性疾患「口唇口蓋裂」の発生率が高い傾向にあるなどが指摘されたが、速やかに次世代の認定基準につながる内容ではなかった。子や孫ら次世代の被害を解明し救済への医学的根拠を期待していた油症一世らは落胆している。
 こうした経緯を踏まえて以下、質問する。

一 行政の責任について
 1 国はカネミ油症事件(発生、経過、被害など)について、どのように全体像を把握し、行政の責任を検証しているか。

一の1について
 御指摘の「全体像」及び「行政の責任」の意味するところが必ずしも明らかではないため、一概にお答えすることは困難であるが、御指摘の「カネミ油症事件」が発生した昭和四十三年当時の食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)において、厚生省(当時)は、食中毒事件が発生した場合に、都道府県を通じて報告を受けるものとされており、「カネミ油症事件」についても、その発生の報告を受けた上で、患者の発生状況の調査や原因究明、被害の拡大防止等を実施するなど、当時の食品衛生法等に基づき、必要な対応を行ったものと認識している。
 さらに、「カネミ油症事件」発生以降、昭和四十三年にカネミ油症の原因及び治療法の究明等を目的として組織された油症研究班(以下「研究班」という。)によるカネミ油症に係る検診等を通じて、継続的にカネミ油症患者の実態の把握に努めてきたところである。


 2 一九六八年二月から三月、カネミ倉庫のダーク油で養鶏二百万羽が中毒死し、農林省は同年三月十八日に回収を指示した。人間の中毒も二月頃から報道されていたが、カネミライスオイルが販売禁止されたのは同年十月十五日だった。この六カ月間に被害は拡大した。この時点で農林省と厚生省の連携がなかったのはなぜか。

一の2について
 お尋ねの「農林省と厚生省の連携」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、昭和六十一年五月十五日福岡高等裁判所判決においては、「国民の生命、身体、財産に対する差し迫つた危険」の「切迫を知り又は容易に知り得べき状況にあつた」場合に「通報が職務上の義務となる」場合があるが、当時の「農林省の公務員」は、御指摘の「カネミライスオイル」による健康被害発生の危険の切迫を容易に知り得るべき状況になく、その予見可能性を肯定し得ないとされ、また、当時の「厚生省(食品衛生行政担当)の公務員」についても、当時の「農林省係官」からの連絡を受けたとしてもその危険について予見可能性が生ずる関係にないとされていると承知しており、政府としても同様の見解である。


 3 カネミ油症事件は食品衛生法の対象になったにもかかわらず、同法の規定にない認定制度が持ち込まれた。それが壁となり認定に至らない場合が相当数ある。食品衛生法による食中毒の扱いであれば、食して不調を訴えた時点で全員が認定される。カネミライスオイルにおいてもそうすべきではないか。なぜ、認定制度が持ち込まれたのか。現時点からでも食品衛生法によって認定をすべきではないか。

一の3について
 御指摘の「食品衛生法によって認定」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、研究班において、その時々の医学的、疫学的及び科学的知見に基づき昭和四十三年に策定し、改訂してきた「油症診断基準」(以下「診断基準」という。)によりカネミ油症患者の認定がなされてきたものと認識している。


二 認定基準の見直しについて
 1 カネミライスオイルの汚染は、一九六八年二月上旬に製造されたものと製造時期が特定された。しかし、早くは一九六一年に北九州市で発症していた(一九七三年十月十二日「毎日新聞」)。また一九六八年五月製造であったために認定されず訴訟を起こしたが敗訴した患者もいる(一九八〇年一月二十一日「朝日新聞」夕刊)。特定された時期に該当しない油症患者は被害認定されてこなかった。加えて、製造時期の特定により、カネミ倉庫の長期にわたる杜撰な操業実態が徹底調査なかったことも問題だ。油症被害の報告に基づいて製造時期を拡大し認定対象を拡大すべきではないか。
 2 被害の診断基準は比較的少数例の診察所見を基につくられ、継続的な観察や追跡検診などによって治験が追加されてはきた。しかし、油症の病態を広く捉えるには十分とは言えない。認定基準は、皮膚症状とダイオキシン類の血中濃度が中心となっている。内科などの全身症状を含めた病態や癌等免疫機能への影響、遺伝子レベルの影響等の把握を行い、それに沿って認定基準を変更する必要があるのではないか。

二の1及び2について
 御指摘の「製造時期の特定」及び「油症被害の報告に基づいて製造時期を拡大」の意味するところが必ずしも明らかではないが、診断基準については、一の3についてでお答えしたとおり、当時の医学的、疫学的及び科学的知見に基づき策定されて以降も最新の知見や技術の進展等を踏まえ、五回にわたり見直しが行われてきたところであり、引き続き、研究班を中心に、必要な見直しについて適切に検討してまいりたい。


 3 二〇一二年の「カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律」によって、同居家族内認定が認められることとなったにもかかわらず、昭和四十三年十二月三十一日までに生まれたものを対象とするという文言のため、以降に症状をもって生まれてきた子どもには認定基準の壁が立ちはだかっている。同法は政治的な判断によるもので、被害者の健康調査とはまったく別問題であると考える。油症班が行う健康調査から、同法による日付の区切りを外すべきではないか。

二の3について
 御指摘の「油症班が行う健康調査」及び「同法による日付の区切り」の意味するところが必ずしも明らかではないが、厚生労働省では、カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律(平成二十四年法律第八十二号)に基づき、カネミ油症の診断を受けた者の健康状態の実態を把握するための調査を実施しており、また、診断基準においては、「油症発生当時に、油症患者・・・と同居し、カネミ倉庫製の、PCB等が混入していた当時の米ぬか油を摂取した者で、現在、心身の症状を有し、治療その他の健康管理を継続的に要する場合には、油症患者とみなす」こととしているところ、この運用に当たっては、昭和四十三年十月に厚生省(当時)から関係都道府県に対し、カネミ倉庫株式会社が製造した米ぬか油について食品衛生法等に基づき販売停止等を行うよう指示したことを踏まえ、同年十二月三十一日までを「油症発生当時」としている。いずれにせよ、診断基準については、二の1及び2についてでお答えしたとおり、最新の知見や技術の進展等を踏まえ、必要な見直しについて適切に検討してまいりたい。


三 次世代の被害認定・救済と「次世代調査」について
 1 厚労省は、次世代被害者について、一世と同じダイオキシン類の血中濃度で認定することを適切と考えているのか。
  また、台湾の台中県で起きた油症事件(一九七八年~一九七九年)では、二世認定について登録制度を設けている。こうした事例を参考に日本においても早急に全体像を把握して、次世代被害者を認定に結びつけ、救済を行うべきではないか。

三の1について
 御指摘の「次世代被害者」の意味するところが必ずしも明らかではないが、カネミ油症患者の認定については、御指摘の「油症一世」と「油症二世・三世」を区別することなく、診断基準に基づいた認定がなされてきたものと認識している。また、「台湾の台中県で起きた油症事件・・・では、二世認定について登録制度を設け」たことについて、その詳細は承知していないが、令和三年度から御指摘の「油症二世・三世」の健康状態を把握することを目的として、研究班によるカネミ油症の診断及び治療に関する調査研究を実施しているところである。


 2 「次世代調査」の先天性疾患「口唇口蓋裂」の症例について、父母(祖父母)の認定がどうなっているのかを示して欲しい。また、油症の症状が認められる二世で、父親が油症患者であるが、母親が油症患者ではない場合、遺伝子のレベルで影響が出た可能性が考えられると思うがどうか。

三の2について
 三の1についてでお答えしたとおり、令和三年度から御指摘の「油症二世・三世」の健康状態を把握することを目的として、研究班による調査研究を実施しているところであり、お尋ねについて現時点でお答えすることは困難である。


四 未認定者の実態調査について
 1 本年十二月、長崎県は独自に県が把握しているカネミ油症未認定者(「次世代調査の参加者」「連絡拒否者」を除く)について実態調査を行う予定である。国が率先して各府県を通して未認定患者の実態把握を行い、認定基準の改定を行うべきではないか。

四の1について
 御指摘の「未認定患者」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「認定基準の改定を行うべきではないか」とのお尋ねについて、診断基準については、二の1及び2についてでお答えしたとおり、最新の知見や技術の進展等を踏まえ、必要な見直しについて適切に検討してまいりたい。


五 PCBを製造した鐘淵化学工業(株)(現:(株)カネカ/兵庫県高砂市)の責任について
 1 国として、(株)カネカの責任をどう捉えているのか。製造物の責任があるのではないか。現在、継続されている「三者協議」(国、カネミ倉庫、被害者)に、被害者から、カネカを加えて「四者協議」とすることを望む意見が出ている。国からカネカに協議に参加するよう働きかけができないか。

五の1について
 御指摘の「(株)カネカ」については、昭和六十二年三月二十日に成立した和解において、「カネミ油症事件」について同社に責任がないことが確認されているため、政府として同社に御指摘の「三者協議」に参加するよう働きかけることは考えていない。


 2 二〇〇四年から国が全額出資し、PCB処理施設「JESCO」が整備された。現在の稼働状況はどうなっているか。国は今後のPCB処理をどのように考えているのか。また、カネカなどが海に流していた大量のPCBをすくい揚げ、アスファルトで覆った通称「アスファルトの丘」が兵庫県高砂市にある。その扱いはどうなっているか。政府の承知されているところを答えていただきたい。

五の2について
 お尋ねについて、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(平成十五年法律第四十四号)に基づき設立された中間貯蔵・環境安全事業株式会社が整備したポリ塩化ビフェニル廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(平成十三年法律第六十五号。以下「特別措置法」という。)第二条第一項に規定するポリ塩化ビフェニル廃棄物をいう。)(以下「PCB廃棄物」という。)の処理施設については、令和五年十一月時点で、北九州事業所、豊田事業所、東京事業所、大阪事業所及び北海道事業所が稼働している。また、PCB廃棄物の処理については、引き続き、特別措置法第六条に基づき定められたポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画(令和四年五月三十一日閣議決定)に基づき、確実かつ適正な処分に取り組んでまいりたい。
 さらに、お尋ねの「アスファルトの丘」の意味するところが必ずしも明らかではないが、東播磨港高砂地区高砂西岸壁に面する港の北側に位置する広さ約五ヘクタール、高さ約五メートルのアスファルトで覆われた人工の丘については、兵庫県高砂市により、昭和五十二年度以降、毎年二回周辺の環境調査が行われており、令和三年度までの地下水や大気等のポリ塩化ビフェニル濃度の調査結果は、いずれも定量下限値未満であったと承知している。