2020/12/12

「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」の成立後の施策に関する質問主意書に対する答弁が届きました。

 

令和2年12月1日に阿部知子が提出した「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」の成立後の施策に関する質問主意書に対する答弁書が閣議決定されました。なお、質問全文と回答の概要(赤字)は以下の通りです。

 

「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」の成立後の施策に関する質問主意書

 

 一九七〇年に成立した心身障害者対策基本法は、第一条に「心身障害者の発生の予防」が記載され、これが自治体レベルでの「不幸な子どもが生まれない県民運動」を後押しすることにつながった。「障害=不幸」と決めつけることにより、政府が長期間にわたって障害者は不要な存在とする優生思想の土壌を作ってきたことは否定できない。

 以下、関連して質問する。

 

一 これまでの障害者施策について

 (1) 二〇一〇年に出された障害者制度改革推進会議の意見書を踏まえた、二〇一一年の法改正により「障害の発生予防」が「障害の原因となる疾病の予防」という表現に変更されたが、それまで行政主導で推進してきた一連の障害者排除の取り組みについて、政府はどのような検証を行ったのか。

一の(1)について

 

 御指摘の「それまで行政主導で推進してきた一連の障害者排除の取り組み」の意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。

 なお、障害者基本法の一部を改正する法律(平成二十三年法律第九十号。以下「改正法」という。)において、改正法による改正前の障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二十三条第二項の「障害の予防」という文言から「障害の原因となる傷病の予防」(改正法による改正後の同法第三十一条第二項)に改正されるなどした趣旨は、予防の対象を明確化するという観点からのものである。

 

(2) 「心身ともに健やかに生まれ」という文言は、障害を持って生まれる子どもの生存を否定しかねない内容であり、旧優生保護法の目的である「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」に通底するものである。政府はこれまでの優生政策を繰り返さないためにどのような施策を行ってきたのか。

一の(2)について

 

 政府としては、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念等について、「共生社会等に関する基本理念等普及啓発事業」による一般市民等を対象としたフォーラムの開催等を通じ、普及啓発を行っているところである。また、市町村等が住民に対して障害者等の自立した日常生活及び社会生活に関する理解を深めるための研修及び啓発を行う事業を実施する場合に、当該事業に要する費用の一部を補助している。今後とも引き続き、こうした取組を着実に進めてまいりたい。

(3) 「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」(以下当該法案という)第三条第四項は、「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする」と規定されているが、この配慮について、政府は何を想定しているのか。

一の(3)について

 

 お尋ねについては、議員立法として提案され、成立した生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律(令和二年法律第七十六号。以下「本法」という。)の国会審議において、その提案者から、本法第三条第四項(以下「本規定」という。)の「必要な配慮の具体的な内容といたしましては、例えば妊婦さんたちに対する健診等が考えられますけれども、生殖補助医療は通常の妊娠、出産の過程とまた異なることから、特に念入りな健診等の対応も必要になることもあり得るということも考慮させていただいた規定でございます。」との説明がなされたものと承知している。

 

 

二 「生まれる子」の権利能力について

 (1) 一九七〇年四月二日の参議院予算委員会において、憲法第十三条の基本的人権の及ぶ範囲について「これから生まれ出る命として存在致しまする(ママ)胎児にもこれが及ぶか」という質問に対し、内閣法制局の見解は「胎児は法律的には母体の一部」であり、「憲法が胎児を権利の主体として保障しているとみるわけにはまいらない」、したがって「権利の持ち主として、基本的人権の享有者として取り扱うというものではない」と答弁している。

  現在もこの見解は変わらないか。

二の(1)について

お尋ねについては、真田内閣法制局第一部長(当時)が昭和四十五年四月二日の参議院予算委員会において、「基本的人権の保障という制度は、権利宣言の由来とか、あるいは具体的に憲法が保障している個々の権利の内容に即しましても、やはりこれは現在生きている、つまり法律上の人格者である自然人を対象としているものだといわなければならないものだと考えます。胎児はまだ生まれるまでは、法律的に申しますと母体の一部でございまして、それ自身まだ人格者ではございませんから、何といってもじかに憲法が胎児のことを権利の対象として保障していると、権利の主体として保障していると見るわけにはまいらないと思います。ただ、胎児というのは近い将来、基本的人権の享有者である人になることが明らかでございますから、胎児の間におきましても、国のもろもろの制度の上において、その胎児としての存在を保護し、尊重するということは、憲法の精神に通ずるといいますか、おおらかな意味で憲法の規定に沿うものだということは言えると思います。」と答弁しているところであり、このような考え方について、現在でも変更はない。

(2) 当該法案第三条第四項の、胎児に「必要な配慮」を法で定めることは、胎児の人権を認め、生命として扱うことになるのではないか。人工妊娠中絶との整合性をどのように考えるのか。

二の(2)について

 

 お尋ねについては、議員立法である本法の国会審議において、その提案者から、本規定に関し、「その趣旨は、障害者権利に関する条約第十条そして第十七条も念頭に置きながら、全ての子供が障害の有無にかかわらず心身ともに健やかなる環境、これはつまり、安全で良好な環境で生まれ、そして育つ権利を有するということでございまして、当然、そのためには、お子さんを出産する女性についても、妊娠から出産に至るまで、健やかなる、つまり安全で良好なる環境が得られなければならず、その環境を整えるために必要な配慮がなされなければならないということを意味しております。」との説明がなされたものと承知しており、そもそも、本規定と御指摘の「人工妊娠中絶との整合性」が問題になるものではないと考えている。

 

(3) 当該法案第三条第四項、「生まれる子」の定義を、政府としてどのようなものとして考えているか。また、日本の法体系において当該法案以外に「生まれる子」という文言を使用している法律はあるか。

二の(3)について

 

 本法は議員立法であるところ、本法上、御指摘の「生まれる子」の定義について定めた規定は存在せず、現時点でこれについて定まった解釈もないため、お尋ねにお答えすることは困難である。また、我が国の現行の法律において、本法以外に「生まれる子」という文言を使用しているものはないと承知している。

 

(4) 当該法案第三条第四項は、「生まれる子」を「必要な配慮」の対象として人格化し、利益あるいは不利益の対象として想定しており、この場合はまさに権利能力の対象とされているのである。そうであれば一九七〇年の内閣法制局答弁とは矛盾するのではないか。見解を示されたい。

二の(4)について

 

 お尋ねについては、議員立法である本法の国会審議において、その提案者から、本規定に関し、「出生前の子については権利の享有主体ではないということで発議者一同一致しておりまして、本法律案では、権利とは規定をせずに、生まれる子については必要な配慮がなされると規定をしたものであ」るとの説明がなされたものと承知しており、本規定が「一九七〇年の内閣法制局答弁とは矛盾する」ものとは考えていない。

以上