あべともこニュースNo.666「いのちと人権への差別は許されない!」2023,3,15発行
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妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる出生前検査(NIPT)に関して、認証を受けずに検査を実施している医療機関があることや、母子健康手帳を配布する際に検査について知らせることが優生思想につながる可能性があることなどについて、2月8日に質問主意書を提出し、同月17日に答弁を得ました。
令和五年二月八日提出
質問第三号
出生前検査に関する質問主意書
提出者 阿部知子
令和五年二月十七日受領
答弁第三号
内閣総理大臣 岸田文雄
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる出生前検査(以下、NIPT)に関しては、二〇一三年に日本産科婦人科学会が指針を策定するとともに、日本医学会が施設の認定制度を設けて検査が行われてきた。しかし、認定施設以外での検査が増加し、適切な遺伝カウンセリングが行われずに受検するなどの問題が指摘されていたことから、厚生労働省は二〇一九年十月から二〇二〇年七月までワーキンググループで実態把握や分析を行い、その報告を踏まえて二〇二〇年十月に厚生科学審議会科学技術部会の下にNIPT等の出生前検査に関する専門委員会を設置、翌年五月に報告書がまとめられた。報告書に基づいて二〇二二年二月に日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会が「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設認証の指針」を公表した。旧制度では認定施設が大学病院など百八施設に限られていたが、指針に沿って、同年九月に連携施設、暫定連携施設合わせて二百四施設が発表され、六月に公表されていた基幹施設と合わせて三百七十以上の施設が認証された。これらの状況を踏まえて、質問する。
一 新たな認証制度によって対象施設が拡大した現在においても、インターネット上には認証を受けずに検査を実施している施設の情報があふれている。報道や専門委員会の報告書によると、非認証施設は皮膚科や美容外科など専門外の医療機関も含まれており、十分な説明や遺伝カウンセリングが行われなかったり、結果が郵便やメールで伝えられたり、結果判明後のフォローが十分でなかったりするケースもあることが指摘されている。また、運営委員会の指針で定められている三種類以外の、精度が検証されていない検査を行っているところもある。これらのことから、NIPTをめぐる問題には国が主体的に取り組む必要があると考える。まずは、どの施設でどのような検査が行われているのか、検査にあたっての説明やカウンセリングはどのようになされているのか、結果の伝達やその後のフォローがどのように行われているのか、非認証施設も含めて実態を調査する必要があると思うが、国の見解を示されたい。
一について
お尋ねについては、令和元年十月から令和二年七月まで開催された厚生労働省の「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ」において、当時、日本医学会等の関係団体が共同して運用していた認定制度による認定を受けた施設及び受けていない施設に対して調査を行い、NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査をいう。以下同じ。)の実態の把握及び分析を行ったところである。
また、令和二年度から令和四年度までの厚生労働科学研究費補助金による「出生前検査に関する妊産婦等の意識調査や支援体制構築のための研究」において、現在、NIPTを含め、母体内の胎児の状況を把握するために行われる検査(以下「出生前検査」という。)の実態等の調査を行っているところである。
二 専門委員会の報告書では、今後の課題として認証制度について「一定の基準を満たした検査実施医療機関を全国に整備するとともに、NIPTの受検を希望する妊婦及びそのパートナーが非認証施設で受検するのではなく、認証医療施設で受検するよう促すことを目的としている」などとある。国としては今後、認証施設での受検を促すためにどのような施策を実施していくつもりか、また、非認証の施設に対してどのような対応を取るつもりか、答えられたい。
二について
お尋ねの「認証施設での受検を促すため」の施策については、厚生労働省において、公益社団法人日本医師会等の関係団体に対して、「NIPT等の出生前検査の適切な運用について(依頼)」(令和四年六月十七日付け子母発○六一七第一号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知)を発出し、NIPT等の出生前検査の適切な運用について依頼するとともに、都道府県、市町村及び特別区(以下「都道府県等」という。)に対して、「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び認証制度について」(令和四年六月十七日付け子母発○六一七第二号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知。以下「都道府県等宛て通知」という。)を発出し、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会(以下「運営委員会」という。)が実施する認証制度(以下「認証制度」という。)において認証された医療機関(以下「認証医療機関」という。)を把握の上、NIPTの受検を考慮する妊婦等に対し、妊娠及び出産に関する包括的な支援の一環として、適切な情報提供を行うよう依頼し、併せて、運営委員会が作成した妊婦向けのチラシ等を示したところである。
お尋ねの「非認証の施設に対」する対応については、令和三年五月に厚生科学審議会科学技術部会NIPT等の出生前検査に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)が取りまとめた「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書」(以下「報告書」という。)において、「非認証施設も含めた登録制度や法的規制を設けるべきとの意見も出されたが、まずはNIPTに係る認証制度を新設し、その運用状況を見ながら、必要に応じて、本専門委員会において対応を検討する」とされたところであり、これを踏まえ、必要な対応を検討してまいりたい。
三 同指針では、「市町村で母子健康手帳を交付する際にチラシを使って検査について情報提供する」としている。同指針は、自治体の情報提供を「受検を勧奨するものではない」としているが、専門委員会の報告書によると、妊娠経験者へのNIPTについてのインターネット調査結果(二〇一五年、有効回答数二千二百二十一)では、検査について「知らないままで良かった」という声もあり、情報提供は、意図しなくても受検を勧めていると理解されることがあることに留意が必要であるとしている。一九九九年に厚生科学審議会先端医療技術評価部会の出生前診断に関する専門委員会が出した「母体血清マーカー検査に関する見解」においては、「本検査の情報を積極的に知らせる必要はない」としていた。この間、国内でもNIPTが行われるようになり、非認定施設での検査が増え、スマートフォンの普及で情報が入手しやすくなったなど、妊婦を取り巻く社会環境の変化があることは理解できるが、基本的にすべての妊婦に情報提供することに方針を転換した根拠を示されたい。
三について
出生前検査に係る情報提供については、報告書において、「近年、ICTが普及し、・・・誰もが容易に出生前検査に係る情報へのアクセスが可能となっているが、信憑性を欠く情報も散見される。他方、出産年齢の高年齢化や仕事と子育ての両立への懸念などを背景として、様々な不安や疑問を抱え、出生前検査についての正しい情報や相談ができる機関を求める妊婦が増加しており、このような妊婦に寄り添った支援の充実が求められている状況にある」ことから、「今後は、妊娠・出産に関する包括的な支援の一環として、妊婦及びそのパートナーが正しい情報の提供を受け、適切な支援を得ながら意思決定を行っていくことができるよう、妊娠の初期段階において妊婦等へ誘導とならない形で、出生前検査に関する情報提供を行っていくことが適当である」とされたことを踏まえ、都道府県等宛て通知において、地域の認証医療機関を把握の上、NIPTの受検を考慮する妊婦等に対し、妊娠及び出産に関する包括的な支援の一環として、適切な情報提供を行うよう依頼したところである。また、厚生労働省においては、令和四年度出生前検査認証制度等広報啓発事業により、ウェブサイトの作成やシンポジウムの開催等を通じて、妊婦等に対し、出生前検査に関する正しい情報を提供していくこととしている。
四 日本産科婦人科学会周産期遺伝に関する小委員会の「NIPT受検者のアンケート調査結果について」によれば、認定施設が加盟するNIPTコンソーシアムが二〇一三年四月から二〇二〇年三月までに実施した八万六千八百十三件の検査で陽性が判明した千五百五十六例のうち千八十三例が妊娠を中断しており、中断率は七十八・二%に上る。21トリソミー(ダウン症候群)に限ってみると九百四十三例中七百七十四例が妊娠を中断し、中断率は八十七・五%に上る。このようにNIPTが広く呼びかけられ、胎児に障害があることが疑われた場合、多くが妊娠を中断している現状がある。妊娠の中断は母親である女性に肉体的、精神的な負担と苦痛を強いるだけでなく、障害者の出生を防止するという優生学的な思想を生むこと、また、障害者の存在や人権を脅かす可能性があることを、障害者権利条約を締結している立場から、国としてどう考えるか見解を答えられたい。
四について
人工妊娠中絶は、母体保護法(昭和二十三年法律第百五十六号)第十四条第一項の規定に基づき、妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合等に、母性の生命健康を保護することを目的として行われているものである。
その上で、出生前検査については、報告書において、「出生前検査は、胎児の状況を正確に把握し、将来の予測をたて、妊婦及びそのパートナーの家族形成の在り方等に係わる意思決定の支援を目的とする」ものであって、「ノーマライゼーションの理念を踏まえると、出生前検査をマススクリーニングとして一律に実施することや、これを推奨することは、厳に否定されるべきであ」り、「出生前検査の受検によって胎児に先天性疾患等が見つかった場合の妊婦等へのサポート体制として、各地域において医療、福祉、ピアサポート等による寄り添った支援体制の整備等を図る必要がある」ことが、出生前検査についての基本的な考え方として示されたところである。
このため、厚生労働省においては、報告書における出生前検査についての基本的な考え方を踏まえ、令和三年六月に、都道府県等に対して、「出生前検査に対する見解・支援体制について」(令和三年六月九日付け子母発○六○九第一号・障障発○六○九第一号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長及び社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長連名通知)を発出し、母子保健に関する施策と障害児の医療及び福祉に関する施策との連携を求めているところであり、引き続き、支援体制の整備等について必要な取組を進めてまいりたい。
五 同指針では「産まれながらの病気の有無やその程度と本人及びその家族の幸、不幸は本質的には関連がない」としている。ダウン症をはじめNIPTで検査されるトリソミーの子どもたちのこの十年における生命予後や医療・生活ケアの向上について、国はどのように把握し、妊婦やパートナーへの遺伝カウンセリングにおいてどう伝えているのか、伝える際の指針はあるのか。また、NIPTのあり方や遺伝カウンセリングに関して、遺伝的な病気のあるお子さんを持つ方々の要望をどのように把握しているのか。
五について
前段のお尋ねについては、例えば、専門委員会における専門家の議論を踏まえ、報告書においても、胎児や新生児に係る医療の質の向上、障害児や障害者に係る福祉の充実等について記載されているところであり、厚生労働省においては、こうした専門家の議論等を通じて、御指摘の「ダウン症をはじめNIPTで検査されるトリソミーの子どもたちのこの十年における生命予後や医療・生活ケアの向上」等について把握しているところであり、また、御指摘の「同指針」においては、NIPTを実施する医療機関に対して、遺伝カウンセリング方法等が示されているとともに、認証制度における認証の要件として、「NIPTの実施前後の妊婦の意思決定について、妊婦が希望する場合は小児医療の専門家・・・の支援を受けられるようにすること」が示されているものと承知している。加えて、医療機関と公的機関等が連携し、情報提供や遺伝カウンセリング等を行うことが重要であることから、都道府県等において妊婦への情報提供や相談支援が適切に実施されるよう、同省においては、専門家の協力を得て、母子保健指導者養成研修を実施し、都道府県等の担当者に対して、御指摘の「この十年における生命予後や医療・生活ケアの向上」に関する情報を含め、NIPT等の出生前検査に関する情報を提供しているところである。
後段のお尋ねについては、専門委員会及び運営委員会に、ダウン症等の者の保護者が所属する団体の代表者及び障害者又は障害児に関する保健医療福祉関係者が委員として参加しているところであり、これらの場を通じて、「遺伝的な病気のあるお子さんを持つ方々の要望」等を把握しているところである。
以上
「異次元の少子化対策」として子ども・子育て支援を前面に掲げる岸田総理。でも、正社員として雇用されている人に対して、非正規雇用者、自営業やフリーランスなどは、産休や育休はもとより、突然の病気、例えばコロナ感染で休業せざるを得ない場合もその間の生活保障はありません。
働き方によって社会保障に「格差」が生じ、安心して妊娠や子育てができない状況が続いています。様々な働き方に対応するための社会保障制度の再構築を質問主意書で質しました。
令和四年十二月二日提出
質問第四四号
国保加入者の休業時所得保障としての出産一時金、傷病手当金等の支給に関する質問主意書
提出者 阿部知子
組合健保等の被用者保険では疾病や出産による休業中の所得保障として傷病手当金や出産手当金の制度がある。一方、市町村国保では任意給付とされ、条例の制定が必要なため実施市町村は現在のところゼロである。
しかし国保加入の農業者や自営業、そして非正規雇用の労働者は、病気やケガをして仕事を休めば収入が途絶え、途端に生活が立ち行かなくなる。被用者だろうと自営業だろうと、仕事を休まざるを得ない間の所得保障は不可欠である。
来年四月にこども家庭庁が発足するが、子どもが健やかに育つ環境を整えることは国家としての政策の基本であり、働き方の態様にかかわらず安心して出産・子育てができる体制を構築すべきである。
こうした点を踏まえ、以下質問する。
一 社会保険制度調査会における議論の継承について
昭和二十一年四月に社会保険制度調査会が発足、昭和二十二年十月に出された「社会保障制度要綱」は、新たに公布された日本国憲法の第二十五条に照らし合わせて、「健康にして文化的な国民の最低生活を保障する広汎な社会保障制度の確立」の必要性を訴えたものである。その中で、休業時所得保障としての傷病手当金と出産手当金について、「被用者」だけではなく、勤労及び事業により生活を営む「自営業」にも段階的に給付すべきことを厚生大臣に答申している。
その内容は、「傷病に対しては療養の給付及び傷病手当金、廃疾に対しては廃疾年金、死亡に対しては葬祭料、寡婦年金、孤児年金、出産に対しては助産の給付、出産手当金、育児に対しては児童手当金、老令に対しては老令年金、失業に対しては失業手当金を給付する。」というものである。
この答申が出された翌年の昭和二十三年十二月二十三日、社会保険制度調査会は廃止され、答申は七十余年経た現在も実現していない。この答申は昭和二十四年に発足した社会保障制度審議会にどのように継承され、現在の全世代型社会保障構築会議においてどのように評価されているのか。
一について
お尋ねの「社会保障制度審議会に・・・評価されているのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、旧社会保障制度審議会における御指摘の「答申」についての議論の状況については、厚生労働省において調査した限りでは不明であり、また、全世代型社会保障構築会議における議論においては、これまで「答申」について特段の発言はなかった。
二 出産手当金について
1 政府は現在、全世代型社会保障構築会議で「女性活躍」や「こどもまんなか」をうたい、働く女性が妊娠・出産・子育てにより社会的・経済的に被る不利益について、ようやく重い腰を上げて取り組む姿勢を見せている。報道によれば自営業者・フリーランス等への育児期間中の給付金制度の創設や国民健康保険加入者の、出産前後の四か月分の保険料の免除、子育て時短勤務者への給付などを検討しているとされる。
ところが、出産時の所得保障としての出産手当金については何も言及がない。育児休業給付金については本年の通常国会で成立した改正雇用保険法の質疑においても、「子育て部門と連携し、子育て制度全体の中で検討する」という旨の大臣答弁があった。雇用保険や健康保険制度の枠内での検討にとどまらないとする前向きな答弁として評価するものである。そうであるならば、国保加入者の出産手当金についても検討すべきではないか。政府の見解を問う。
2 令和三年五月二十日、参議院内閣委員会において、厚生労働省の榎本大臣官房審議官は、国保で任意給付に位置づけられている出産手当金を全国統一の制度とすることについて、国保には様々な就業形態の者が加入しているため、妥当な支給額の算出が難しいという趣旨の答弁をしている。しかし、前年の所得を基準に算出するなど、あらゆる方法を検討し、全国どこに住んでいても統一の制度として、国庫から財政支出すべきと考えるが政府の見解如何。
二について
お尋ねの「検討すべきではないか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国民健康保険においては、被用者や自営業者等が加入しており、出産に際しての収入の喪失等の状況が多様であることから、御指摘の「国保加入者の出産手当金」については、条例又は規約の定めるところにより、各保険者の実情に応じた給付を行うことができることとしているところであり、また、御指摘の「出産手当金を全国統一の制度とすること」については、令和四年五月十八日の参議院本会議において、後藤厚生労働大臣(当時)が「国民健康保険では、様々な就業、生活形態の方が加入しており、出産に際しての収入減少の形態が多様であることから、出産前後の所得補償である出産手当金については保険者による任意給付としています。国民健康保険において出産手当金を全国的な制度とすることは、所得補償として妥当な支給額の算出が難しいこと、多様な被保険者間の公平性や財源の確保など、難しい課題があると認識しています」と答弁しているとおり、様々な課題があると認識している。
三 傷病手当金について
1 傷病手当金の支給については出産手当金同様、市町村の条例や規約で定めることができるとされているが、一昨年一月より「新型コロナウイルス感染症に関して、感染拡大防止を目的として、保険者が傷病手当金を支給する場合に、支給額全額について国が特例的に財政支援を行う」仕組み(以下「コロナ特例」)が創設された。
しかし、対象者は「国民健康保険に加入している被用者のうち、新型コロナウイルス感染症に感染した者、又は発熱等の症状があり感染が疑われ、療養のため労務に服することができなかった者」とされている。なぜ「被用者」だけなのか。目的が「感染拡大防止」であるなら、被用者であっても自営業者であっても等しく感染症に罹患するのであり、対象を被用者のみとすることには納得できない。合理的理由を述べられたい。
2 「コロナ特例」による傷病手当金の支給目的は感染拡大防止であり、いわば社会防衛のためである。しかし、やむを得ず休業せざるを得ない場合の所得保障は、憲法第二十五条「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために必要な制度でなければならない。
現在新型コロナウイルスによる感染症の渦中にあり、今後も新たな感染症の発生が予想される今日、社会保障制度の一環として国保加入者の傷病手当金制度を確立すべきと考えるが政府の見解は如何。
三について
国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第五十八条第二項に規定する傷病手当金(以下「傷病手当金」という。)は、被保険者が疾病又は負傷のため労務不能となり一時的に収入の喪失等を来した場合に、これをある程度補塡し、生活保障を行うことを目的とするものであるところ、新型コロナウイルス感染症に感染し、又は同感染症の感染が疑われる被用者に対して保険者が傷病手当金の支給を行った場合に、国が特例的に財政支援を行っている。自営業者等に対する支給を財政支援の対象とすることについては、令和三年三月十六日の参議院厚生労働委員会において、濵谷厚生労働省保険局長(当時)が「個人事業主につきましては、被用者と異なりまして、やっぱり療養の際の収入の減少の状況も多様でございます。また、所得補塡としての妥当な支給額の算出も難しいといった課題もございます。そういったことから、全国的に財政支援の対象とすることには課題が大きいものというふうに考えております」と答弁しているとおり、様々な課題があると認識している。また、「社会保障制度の一環として国保加入者の傷病手当金制度を確立すべき」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国民健康保険においては、被用者や自営業者等が加入しており、療養を行う際の収入の喪失等の状況が多様であることから、傷病手当金については、条例又は規約の定めるところにより、各保険者の実情に応じた給付を行うことができることとしているところ、傷病手当金を全国的な制度とすることについては、所得補塡としての妥当な支給額の算出が難しいこと、多様な被保険者間の公平性や財源の確保を図る必要があること等の様々な課題があると認識している。なお、政府としては、働きたい人が働きやすい環境を整えるとともに、所得保障を厚くする観点から、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を着実に進めていくことが重要と考えている。